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ニガ玉、艶やか 母の記憶 近藤正臣さん

食の履歴書

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岩陰で魚影が揺れた。足を踏ん張り、思いっきり息を吸い込んで川底に手を伸ばす。石の下にいたのはフナやハヤ、オイカワ……。大きなウナギを捕ったこともある。京都の鴨川が少年時代からの遊び場だった。

複雑な家庭環境で生まれ育った。母は祇園の元芸妓(げいこ)。父は清水寺の境内にある「舌切茶屋」の3代目主人。"外の子"として正臣を認知し、本家の近藤姓を名乗らせていた。

「大人の事情なので何があったのかよく分からないよ。俺が2、3歳のときには父はすでに亡くなっていたんだ」。物心ついたときには母が木屋町三条で小料理屋を営んでいたという。

自由奔放な母は男によくもてた。色恋沙汰が途切れたことがない。息子に平気で男遍歴の話をする。「子どもよりも自分の人生を優先するような母親だったけど、息子から見ても艶っぽくていい女だったなあ」

日々の食卓にのぼったのは店で残った料理。特に印象深いのが「ニガ玉」と呼ばれるウナギの胆のう。心臓の脇に付いているクルンとした緑色の玉を串に刺して甘いたれを付けて火であぶる。口に入れてかむと苦みがトロリと広がった。

「大人にしか分からない味。最初は大嫌いだったけど『目にいいから』なんて母に言われて食べていたら好物になっちゃった」。ニガ玉にはそんな母の懐かしい思い出が詰まっている。

料理屋継がず勘当

地元の高校を卒業した後、大阪の高級料亭に修業に出されるが、性に合わずにわずか3カ月で辞めた。高校で始めた芝居で身を立てようと劇団を立ち上げてみたものの空回りが続く。

母から勘当されて友人の家を泊まり歩く日々。夜を徹して青臭い演劇論を戦わせ、明け方の円山公園で買い食いしたのが「チチパン」と呼ばれるパンと牛乳のセット。クリームパンやジャムパンを分け合い、1本の牛乳を回し飲みした。

「ろくにカネもないくせに皆で空腹をやせ我慢してパンの切れ端をハトにやっていた。それだけが唯一の優越感。いまから思うと寂しい突っ張りだったね」

60年安保で世の中が騒然とした時代。喫茶店で知り合った京大や同志社、立命館の学生の影響で反権力に目覚めていった。「世の中なにかおかしくないか」。デモにも先頭に立って参加した。青春のエネルギーのはけ口を探し求めていた。

やがてエキストラとして出演していた松竹の京都撮影所の助監督に「大船撮影所に来ないか」と誘われて上京することに。だが暗いトンネルの出口は見えてこない。待てども待てども通行人のような端役ばかり。松竹と交わした契約は最低ランクCのまま。「スターも監督も文学座も俳優座も劇団民藝も……。すべてが反抗すべき権力にみえた」

人生の転機は1969年から放映を始めたテレビドラマの「柔道一直線」。主役(桜木健一)のライバル役に抜てきされて人気に火が付いた。それをきっかけにテレビドラマ「木下恵介・人間の歌シリーズ」に出演。ようやく役者として食えるようになる。「木下監督に引き上げてもらったおかげ。人生の恩人です」

ロケ地で出合った第二の故郷

二枚目の売れっ子俳優として活躍していた80年代。ドラマのロケで「第二の故郷」と巡り合う。岐阜県・郡上八幡――。なぜか気持ちが安らぐのを感じた。

「吉田川という長良川の支流が流れていて、橋から魚の群れがわんさか見えたんだ」。鴨川で遊んでいた記憶が脳裏によみがえってきた。ロケが終わっても旅館に滞在し、数日間、ぼんやりと川を眺めていた。

長良川河口堰(ぜき)の反対運動に参加したのは「単純に腹が立った」から。反権力の姿勢がここでも頭をもたげた。「ついのすみかを構えたい」。いつの間にかそう考えるようになっていた。やがて釣りのポイントになりそうな川の土手に念願の別荘を建てた。

晩年、母がこんなことを口にする。「私は本家の墓には入れないから、墓はいらないよ。焼いたお骨を比叡山から琵琶湖に向けてまき、残りは山桜の見えるところに埋めておくれ……」

その夢をかなえようと思った。遺言通り、比叡山の中腹で散骨し、残りのかけらを郡上八幡の別荘の土手に山桜を植えて埋葬した。

川の幸ある地が居場所

今では1年のうち4カ月は別荘で過ごす。アユ、イワナ、アマゴ、マス……。吉田川で釣り三昧。包丁を何本もそろえては自分で研ぎ、釣ったばかりの魚をさばく。絶景を見ながら河原で塩を振って焼いて食べるのは最高のごちそうだ。

小魚も美味。ヨシノボリやアジメドジョウを網ですくって天ぷらにしたり、しょうゆとみりんでたきしめたり。四季折々で変わる自然の味覚を堪能する。「ここが俺の縄張りだぞという気持ち。番人としていつまでも川を眺めていたい」。74歳のベテラン俳優は少年のように瞳を輝かす。

母が亡くなって早15年。大きく枝を広げた土手の山桜は、今年も薄紅色の見事な花を咲かせたという。

旬と食材の確かな腕

東京・世田谷にあるそばと上海家庭料理「大吉」(電話03・5450・4557)は10年以上前から家族や友人、芝居仲間らと通っている。東急世田谷線の世田谷駅から徒歩3分ほどの距離だ。

10~12月くらいならば「旬の上海ガニが絶品」(2800円~)。オスを選んで料理してもらい、ねっとりした濃厚なカニ味噌を豪快に食べる。

「中国野菜ツワン・チー(川七)の炒め」(860円)という野菜いためも必ず注文しているメニュー。ヌメリのある葉にシャキシャキした茎の歯応えが食欲をそそる。

それに「柔らかいピータン」(430円)を合わせるのが定番。「黄身がトロッとしていて、これが本当にうまいんだ」

メニューを書いた紙が店頭にベタベタと張ってあるような庶民的な店だが「吟味された旬の食材と調理人の腕の確かさには舌を巻いた」という。

(編集委員 小林明)

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