やりがいを考えれば定年後は転職もいい経済コラムニスト 大江英樹

再雇用制度が法律で義務付けられて以降、多くのサラリーマンが60歳で定年を迎えた後、会社の再雇用プログラムで働くようになりました。中高年層のサラリーマンの活躍の場が広がることは決して悪いことではありませんが、再雇用という制度は「過去の上下関係によるプライドが捨てられない」など様々な問題点があるようです。

そんな中、数は非常に少ないですが、定年を迎えた後に今の会社に残ることをよしとせず、別の会社に転職する人もいます。定年後の働き方として実はこの「転職」は決して悪くない方法だと思います。むしろ再雇用よりはるかにこちらの方が良いと私は考えています。私もそういう人を何人も知っていますが、みんなとても生き生きとして働いているからです。

多くの人は定年後の転職なんて無理だと思っているかもしれません。しかし、昔はごく普通のことでした。私が会社に入った1970年代は多くの企業で定年は55歳でした。ところが年金をもらい始める年齢は60歳でしたから、定年を迎えた後、第二の職場で5年か10年働いて年金をもらうというパターンが一般的だったのです。

かつて私の先輩や父親もみんなそうでした。しかしながら第二の職場を元の会社が用意してくれるということはあまりありません。みんな自分の現役時代の取引先など個人的なツテを利用して第二の職場を探して転職したのです。

1986年に「高年齢者雇用安定法」という法律ができたことで59歳以下の定年が法律で禁止されました。これによって60歳の定年と同時に年金がもらえることになったのです。このため、多くのサラリーマンは定年後に再就職はせず、そのまま年金暮らしに入りました。

その後、年金支給開始年齢を65歳にする年金制度の改定が行われると、今度は60歳の定年後に「空白の5年間」が再び生じます。そこで今度は2012年に「高齢法」が改正され、希望すれば65歳までの継続雇用が保証されるようになった経緯があります。

もちろん元気で生き生きと働けるのであれば、同じ会社で再雇用されて働いてもいいのですが、転職には実は再雇用にはない大きなメリットがあるのです。新卒間もない若手社員と違って、60歳からの転職は何らかの専門的能力や経験を買われてということになります。大企業に勤めていた人は定年後の転職はほとんどが中小企業でしょう。

中小企業は規模は小さいですが、責任も権限もそれなりに大きくなります。受け入れる側も活躍への期待があってのことですから、転職することによって再び活躍の場が広がる可能性があります。

ところが、再雇用の場合だと、これは微妙です。再雇用社員への期待は中小企業ほど大きくありません。むしろ大企業の場合、「60歳以降は残ってほしくない」が本音だったりします。私自身の経験から言えば、再雇用者の労働意欲が大きく減退する最も大きな理由は「立場が変わることによる責任と権限の大幅な低下」です。

でもこれはいってみても仕方がないことです。雇う側も働く側も長い間、「定年まで働いて引退」というパターンに慣れています。その後の再雇用は双方の経験が乏しいため、試行錯誤は当たり前です。

したがって転職して新しい職場に移るというのは、新たな責任と権限の下に仕事に取り組めるいい機会だといえます。だとすれば、50歳代半ばぐらいからは60歳以降の新たな働き方として次の仕事を模索し、昔の人がやったように自分で活躍できる職場を見つける努力を少しずつしていってもよいのではないでしょうか。

「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は5月19日付の予定です。
大江英樹(おおえ・ひでき) 野村証券で個人の資産運用や確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学会の会員で、行動ファイナンスからみた個人消費や投資行動に詳しい。著書に「定年楽園」(きんざい)など。近著は「投資賢者の心理学」(日本経済新聞出版社)。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。
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