今こそ、親族後見人に対する教育と支援を弁護士 遠藤英嗣

4月8日、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(成年後見制度利用促進法)が成立しました。2000年に始まった成年後見制度は利用者の低迷や制度の硬直化などが指摘されています。新法では利用促進会議を設置し、3年をメドに成年後見制度のあるべき姿を考え、利用促進基本計画を立てるとしています。今回はこの促進会議の中でぜひ、検討してほしい課題を取り上げたいと思います。「親族後見人の支援」です。

親族後見人へのサポートはない

成年後見制度が始まって16年間、親族後見人は何の支援も得られず放置されてきた結果、成年後見人として不適格だという烙印(らくいん)を押されてしまったように思います。制度の発足当時は選任される成年後見人の9割以上が親族後見人でしたが、いまでは4割以下です。

私は、昨年までの10年間、公証人として任意後見契約の作成に携わってきましたが、親族後見人については「暗中模索の中で孤軍奮闘している」という印象しか持てませんでした。親族が後見人(成年後見人や保佐人等)に選任されても、計画的な教育や組織的な支援を受けることができないからです。

弁護士や司法書士などの専門職後見人の場合は、後見人の選任(家庭裁判所への登録)を受けるために、所属団体による基礎研修や更新研修を受け、実務能力に磨きをかけます。所属団体には相談コーナーもあり、迷いがあれば支援指導を受けることができる体制もあります。

しかし、家族など親族後見人に対するサポートシステムはまったくありませんでした。

市民後見人は手厚い研修

特に大事なのは就任時の初期研修制度だと思います。親族後見人については、本人の財産を着服するなどの不正が多発したことが指摘されていますが、その原因の一つはここにあると考えています。

成年後見制度は「親族後見人」と「第三者後見人」によって支えられています。そして、第三者後見人として国が養成・支援に本腰を入れているのが「市民後見人」です。この市民後見人に対しては50単位にわたる養成研修が行われます。内容は成年後見制度そのもののほか、民法(家族法)、介護保険制度、認知症の知識など後見人に必要な様々な事柄を学ぶのです。

2、3時間程度、ビデオを視聴したら終わりというものではありません。研修の中では成年後見人としてのあるべき姿、任務の内容、責務と倫理観などを体得してもらいます。私もしばしば任意後見制度などの講師を務めていますが、その中で任意後見人は裁判所に間接的に監督を受ける「公人」であることを自覚するよう申し上げています。

ところが、親族後見人には就任後のサポートもなく、中間研修(フォローアップ研修)もほとんど行われていません。裁判所によってはビデオなどで研修が行われていますが、市民後見人のために用意されたカリキュラムにある研修内容には程遠いものです。

今回成立した成年後見制度利用促進法にも成年後見人の育成と支援が盛り込まれました。私は、市民後見人の仕事を支える枠組みの中に親族後見人も組み込み、地域で支えるべきだと考えています。

任意後見人への教育・支援もなし

任意後見人になると状況はさらに悪くなります。

任意後見制度はあらかじめ、本人の判断能力が十分なうちに将来、後見人に就任してもらう人(任意後見受任者)と公正証書で任意後見契約を締結して、認知症などを患い判断能力が不十分になったときに備えておくというものです。そして、本人が運悪く判断能力が不十分になったときには、家庭裁判所に対して任意後見監督人の選任を申し立て、後見事務を開始します。

任意後見人(任意後見受任者)の大半は家族、親族です。現行の法律では任意後見契約の締結後、任意後見受任者が後見事務について教育や支援を受けられる制度設計にはなっていません。

任意後見制度は現行の後見制度の中で、最も本人の意思を尊重し、その思いを実現できる制度であると思うので、私は多くの人にこの任意後見契約を勧めてきました。しかし、今回成立した成年後見制度利用促進法を見ても、任意後見制度は重要視されておらず、蚊帳の外に置かれそうであり、私はそれを危惧しています。

適当な相談窓口などがないため、本人が認知症になって後見事務が必要になっても、任意後見受任者はどうしたらいいのかわからず、困っているのが実情です。公的な相談窓口を設け、任意後見開始の申し立てなどについて的確なアドバイスし、支援する仕組みが必要です。

現状では、窓口はあるにはありますが、多くの人が敷居が高いと避ける家庭裁判所にしかありません。裁判所も個々の相談に応じることができるほど余裕はないのが実情なのです。

いまや、地域の支援や地域力で後見制度の担い手を養成・支援する枠組みが不可欠の時代です。市民後見人のための養成機関の対象者の中に、親族後見人や任意後見人、さらには任意後見受任者を入れ、社会全体で親族後見人、市民後見人を支援し、高齢者の権利を守ることこそが大事なのです。

新法の下で立ち上がる利用促進会議では、これらのことを積極的に課題として取り上げ、広く高齢者の権利が守られる制度設計ができることを期待しています。的確な教育と支援体制を築くことこそが、親族後見人の後見人としての資質と倫理観を培い、不正のない成年後見制度の実現に大きく寄与すると確信しています。

遠藤英嗣(えんどう・えいし) 1971年法務省検事に就任。高松地方検察庁検事正などを歴任し、2004年に退官。05年公証人となり、15年に退官。公証人として作成した遺言公正証書は二千数百件に及ぶ。15年に公証人を退官し弁護士登録。日本成年後見法学会常務理事を務めるほか、野村資産承継研究所研究理事として税務の専門家と連携して、資産の管理・検証などを研究する。主な著書に「増補 新しい家族信託」(日本加除出版)、「高齢者を支える市民・家族による『新しい地域後見人制度』」(同)などがある。
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