マネー研究所

税務署は見ている

国税調査官が「白色申告者」を見る目線

2016/5/3

 個人で事業を営む人が初めて確定申告をする際、「白色」がいいのか「青色」がいいのかということがよくネットで話題に上ります。そもそも、なぜ白色、青色という呼び方になったのでしょうか? 昔は本当に申告書の色が白色と青色に分かれていたからなのです。今回は白色申告と青色申告について、2代目経営者のAさんとの対話を再現してみましょう。

A:「飯田先生。僕の友達のY男なんですけど、独立しよったんですよ」
飯田:「そうなんや~」
A:「まあ、平たくいうとリストラされよったんです」
飯田:「あら~」
A:「ハローワークに行ったり友達に仕事ないかって聞きに回ったりしてたそうなんですけど、なかなか思うような仕事が見つからんかったみたいで……」
飯田:「まあ、そうやろうね」
A:「Y男はものすごく家族思いのヤツで、上の子が小学校にあがる前にって去年、郊外に一戸建て買ったとこなんです」
飯田:「え~、家買ったのにリストラは、きついなぁ」
A:「子どもを育てる環境は何よりも大事やって、無理してローン組みよったんです。その矢先ですわ。『やっぱり、おはらいに行かんとあかんかったんかなぁ』とか、そんな神さんとか、全然信じるようなヤツじゃなかったんですけど、なんか、急に弱気なこと言い出して、ちょっと、ホンマに心配な時もあったんです」
飯田:「ふむふむ」
A:「1カ月くらい、リストラされたって嫁に言えずに、朝起きたらいつもと同じように背広着て家出て、ハローワークに通ったりしてたらしいんです。そやけど、全然、いい仕事が見つからんくて……。2カ月たって、もうあかんって思って、いったん出掛けたけど子どもが学校行ったころ見計らって家に戻って、嫁にクビになったこと話したんやそうです」
飯田:「そしたら?」
A:「いや~。ホンマに、女ってすごい生き物やと思いますわ。『あんたと何年一緒にいてると思てんのん。そんなこと全部わかってたわ。子どもが学校行ってる間に私もパートに出るから、大丈夫や』って言われたんやそうです」
飯田:「へ~、奥さんは全部、お見通しやったんや」
A:「はい。そしたら嫁さんと話してるときに、前の会社の営業先の人から『最近、顔出さへんけど、どうしたんや』って、Y男の携帯に電話かかってきたんです」
飯田:「ふむふむ」
A:「で、事情を話したら『まずは1年、顧問としてうちの仕事してくれへんか』って言われたんやそうです」
飯田:「いやぁ、よかったですやん」
A:「それでY男のヤツ、僕に『確定申告は白色か青色かどっちにしたらええんかなぁ?』って聞いてきよったんです」
飯田:「なるほどね。で、Y男さんはいつ開業しゃはったん?」
A:「う~ん、開業ですかぁ? 1年契約してもらえたって言ってきたんは去年の5月くらいやったですかねぇ」
飯田:「そうなんや。年の途中で開業した場合は、開業してから2カ月以内に『青色申告の承認申請書』を税務署に提出せんと、青色で申告することはでけへんのんよ」
A:「えっ、そうなんですか?」

 個人事業主の方が青色申告をしようとする場合、その年の3月15日までに所轄の税務署に青色申告の承認申請書という届出書を提出しなければなりません。年の途中で開業した場合は、開業してから2カ月以内に青色申告承認申請書を提出すれば、その年から青色で申告することができます。

 Y男さんは3月にリストラされてから、何とか仕事を得ようとハローワークに行ったり友達を訪ねたりしていました。5月になって元の会社の営業先と1年契約で仕事ができるようになりました。

 会社に勤めているときは毎月、銀行の口座にお給料が振り込まれていました。1年契約してくれた会社は、源泉徴収税額を差し引いた金額を振り込んでくれましたが、領収書と引き換えに現金で報酬をもらう時もありました。

 個人事業主の方が確定申告をする際、白色申告と青色申告のどちらを選べばいいのかということがよくいわれていますが、実は、白色申告は選ぶものでありません。青色申告を選択することができる期間内に青色申告の承認申請書を提出し、それが認められた納税者が青色申告することが認められるという制度なのです。

青色申告にすれば

(1)65万円の青色申告特別控除が受けられる

(2)家族に対して青色事業専従者給与がとれる

(3)3年間赤字を繰り越すことができる

など、様々な特典を受けることができます。ただし、遅滞なく複式簿記で記帳しなければならないという制約もあります。

 国税当局は、白色申告で申告する経営者のことを青色申告を選択しなかった経営者であるという見方をします。特に、現場の調査官たちは、白色で申告書を提出している納税者に対しては、税務や経理に関して興味と関心がない納税者という認識を持っています。もしくは、何かしら現在の税務行政にものを言いたいと思っている人なのではないかと思ったりしているのです。

 そのようなことも踏まえて青色申告で提出するか、何もアクションを起こさず白色で申告するのかを決めていただければと思います。Y男さんの場合は今年も白色でしか申告できませんが、来年は3月15日までに青色申告申請書を提出し、来年以降は経理や税務にも関心を持ちながらお仕事を続けていってほしいと思います。

飯田真弓(いいだ・まゆみ) 税理士。産業カウンセラー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生。26年間国税調査官として7カ所の税務署でのべ700件に及ぶ税務調査に従事。在職中に心理学を学び認定心理士の資格を取得。2008年に退職し12年(社)日本マインドヘルス協会を設立し代表理事に。関西弁でテンポ良い税務調査の講演やメンタルヘルス研修(ワークショップ)は「眠くならない!」と好評。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』(ともに日本経済新聞出版社)。DVDに『税務調査に選ばれる企業の共通点』(H&W)他。facebookに「税務署は見ている」研究会(https://www.facebook.com/zeimushohamiteiru)。

B勘あり!

著者 : 飯田 真弓
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,620円 (税込み)

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