どう付き合う? やっかいな年上の部下、年下のママ友
A. いろいろな企業でこうした悩みはよく聞きます。上司の立場として、お気持ちはよくわかります。ただ、部下が年上だとやはり気を使いますが、そのためにかえって上司の側が「壁」を作っている可能性もあります。「○○さんは細かいことを言ってもムダだから言わずにおこう」などと。しかしいざ動いてほしいと思ったときに、日ごろからの関係性ができていないと相手は動いてくれません。
人には感情がありますから、「年下の上司だけどこの人のためにやってあげよう」と思ってもらえる自分になっておく必要がありますね。そのためにはやはり常日ごろのコミュニケーションが大事です。ところが実際に調査をしてみると、企業内で管理職と年上の部下の間にはあまり会話がないようなんです。
特に最近は、目先の仕事や納期、数字を上げることなどに皆が追われてしまって、基本的なコミュニケーションがおろそかになっていることが多いようです。でもそれだと必ず、部下や後輩から上司への不満が出てきます。
ここはまず上司から先手で心を開いて言葉をかけることをおすすめします。部下から上司へは仕事に関係のない話はしにくいもの。ですから、上司のあなたからは仕事以外のささいな話でもいいのです。例えば「軽くて持ちやすそうなバッグですね。どこで購入したんですか?」という感じです。普段どのように声をかけているか、まずは振り返ってみてください。最初は互いにしっくりこないかもしれませんが、続けることで変化はふとしたときに訪れるでしょう。
そして、上司としてはマナーの7つの原則をいま一度、意識していただければと思います。7つの原則とは、「1.表情」「2.態度」「3.あいさつ」「4.身だしなみ」「5.言葉遣い」「6.返事」「7.名前を呼ぶこと」――です。これらは、上司ができていなければ部下もやってくれません。
例えば言葉遣いでは、部下とはいえ相手が年上なら敬語ベースで。何かお願いするときは必ず"クッション言葉"や"(相手の都合の)伺い系フレーズ"を使う、などです。「○○さん、お忙しいところ悪いんですけれど……」で始め、「×日の午前中までにやってもらえますか?」のように期限もしっかり伝えます。
ご質問では、業務時間終了前に着替えてしまった部下を注意するとき、もしかしたら「まだ業務時間中ですから着替えないでください!」とストレートに注意したのではないでしょうか。それは正論ではありますが、ひとこと「○○さん、着替えたくなる気持ち、私もわかります」と共感フレーズを置いたうえで、「だけど、本当に申しわけないんだけれど、若手の手前もあるので、時間になってからにしてもらっていい?」という言い方なら、素直に受け取っていただけたのではないでしょうか。
幕末の儒学者である佐藤一斎先生は「礼儀は鎧(よろい)」という言葉を残しています。礼儀とはつまりマナーです。相手の立場に立ったら自分はどうすべきかと考えることで、相手との関係が改善する、すなわち自分自身を守ることにつながります。マナーは単なる作法ではなく、自分自身を守ってくれるものでもあるのだということを心に留めてみていただけるとうれしく思います。
A. 年下だから、などということは関係なく、言葉に配慮が欠けている人はいるものです。しかし、言っている本人には悪気はないケースが大半ですので、その点は理解して差し上げようという気持ちは持っていてほしいと思います。
さて、こちらのご質問の場合、お子様同士の付き合いもあるため、ママ友とは良好な関係を保ちたいですね。しかし、どうしても苦手意識を持ってしまう相手ができることもあるでしょう。でもそうした苦手意識は自然と相手に伝わってしまい、よけいに関係がこじれる原因になる可能性が……。
本当は互いに年齢など気にしないのが一番なのですが、やはり「こういう言動はやめてほしい」という気持ちを伝えたいのであれば、むしろ年上であることを武器にしてはどうでしょうか。例えば「△△さん、一応私は年上だからあなたのためにおせっかいで申しわけないんだけど、お伝えしてもいい? さっきの言い方、私には言ってもいいけど、他の人には言わない方がいいと思うわよ。偉そうなこと言ってごめんなさいね。でも、△△さんに悪気はなくても、世の中にはいろんな人がいて、それぞれに受け取り方も違うから……」という感じです。
このように注意を促すことをちゅうちょなさる方もいらっしゃるかもしれませんが、相手に対して心の扉を開いているからこそ言える、と前向きに捉えてみましょう。
このとき、表情や声はどこまでもにこやかにして、決して不愉快さを表に出さないようにすることがポイントです。若い人は感情がすぐ顔に出ますから、年上の自分は同じ土俵には決して乗らないという余裕を持って接しましょう。相手をたしなめながらも表情は笑顔を崩さないことで「一枚うわて」の自分になる、そんなあなたでいることをおすすめします。
そして、顔を合わせるときは常にマナーの7原則を忘れずに。相手の反応にかかわらず、あいさつ、笑顔の表情、などを続けていくことで、関係性が改善していくことがたくさんあります。ここでもマナーには自分自身を守るという大きな意味があるのです。
マナーコンサルタント・美道家。英国の民間企業WitH Ltd.ウイズ・リミテッド日本支社代表を務めたのち、ウイズ株式会社、HIROKO ROSE株式会社、一般社団法人マナー教育推進協会を設立。企業・一般向け研修、コンサルティングのほかTVドラマや映画のマナー指導などでも幅広く活躍中。音楽療法とリトミックを用いて、職場のコミュニケーションや協調性、ストレス改善を目的とするマナーリトミックを考案し、国立音楽院との共同開発研修手法も好評。インターネット講座『仕事と人生を豊かにするマナー道』も配信中。『お仕事のマナーとコツ』(学研プラス)、『できる大人の気くばりのルール』(KADOKAWA)など著書多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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