体のありとあらゆるツボを探したら…
立川吉笑
師匠から与えられた今回のお題は「やったやった!大成功」ということで、笑二からのマクラを受け取って、今週も師匠へトスしたい。
4月も終わりに近づき、ようやく花粉症の症状が落ち着いてきた。このシーズン、花粉症の落語家は本当に気が滅入る。高座中に鼻水が垂れたり、目がかゆくなったりすると露骨に落語の出来が悪くなったりするし、喉に少し違和感があるだけでもベストパフォーマンスができなかったりする。
毎年のことなので、四六時中マスクを装着したり、病院で処方してもらった点鼻薬を利用したり、落語家は自分なりの方法で花粉症に立ち向かうことになるのだけれど、もっと根本的な解決方法はないものか常に探し続けていた。
そんな中、今年の冬、僕はあることに気がついた。
末端冷え性でもある僕は、冬の時期、特に夜になると足の先が冷た~くなって、自宅で落語の稽古をしようにもどうにも集中できない毎日が続いていた。
厚手の靴下を履いたり足湯をしたり、ジンジャーティーを飲んだり、とにかく体を温めようとありとあらゆる手段を講じたけれど、どれも一時的には効果があるものの、すぐにまた足先が冷えてしまう。どうにかならないかと色々と探っているうちに『三陰交(さんいんこう)』というツボに出合った。
内くるぶしから指4本上にあるこのツボは、押すと途端に体の冷えが改善される。
僕はこれまでツボを、ただの気まぐれだと思っていたのだけれど『三陰交』の効果は絶大で、これを機にツボの効力を見直すことになった。
調べてみると人間の体にはたくさんのツボが隠されている。
おへそから指3本分外側の位置にあるツボは『天枢(てんすう)』という。ここを指の腹で軽く押すとみるみる胃腸の調子が良くなっていく。
体のある部分を押すことが、なぜ他の部分に良い影響を及ぼすのかその理由は分からないものの、とにかく因果関係があることは間違いないようである。現に三陰交を押した僕の足は温かくなり、天枢を押した僕の胃腸の調子は良くなった。
ツボの効果を目の当たりにした僕が思ったことは2つ。
1つは生まれてから今まで、親から僕の体に隠されているツボの説明書みたいなものを受け取っていないということ。本当だったらへその緒にくくりつけるような形で、生まれると同時に自分の取扱説明書を渡してもらわないとおかしい。
もう1つは気付いていないだけで、本当は僕の体にはもっとたくさんのツボが隠されているのではないかということ。それこそ花粉症に効くツボがあってもおかしくない。いや、むしろ花粉症に効くツボがない方がおかしい気すらする。
◇ ◇ ◇
そう思ってからというもの、自分の体に隠されたまだ見ぬツボ探しの毎日が始まった。とにかく体のありとあらゆる部分を押しては効果があるかを判断をするのだ。その結果、花粉症に効くツボだけでなくいくつかの新しいツボを発見することができたので、以下に僕が発見した新しいツボを記載させていただく。
まず、花粉症に効くツボ。これは案外簡単に発見することができた。ツボ探しを始めて真っ先に注目したのは足の裏だ。なぜなら足ツボマッサージという言葉があるように、足の裏にはありとあらゆるツボが隠されているからだ。土踏まずの部分は消化器系の不調を改善したり、指の付け根は目の疲労を改善したりと、足の裏を適当に押せば必ずどこかが健康になるくらいに、至る所にツボが隠されている。
そこで僕はふと、足の裏のツボを全部まとめて押したら良いんじゃないかということに気がついた。どこにどういったツボがあるか図表で確認して、律儀にピンポイントでそのツボを押すんじゃなくて、どうせたくさんのツボがあるんだったらまとめて押してしまった方が時間短縮につながるのじゃないか。すぐに「足の裏全部押し器」という手製の装置を用意した僕は、足の裏のツボを全部同時に押してみた。すると、何ということでしょう。みるみる内に鼻毛が雌しべに変わってしまった。
これまで試したことがなかっただけで、足の裏のツボを全部同時に押すと、どうやら鼻毛が雌しべになるらしい。雌しべになった元・鼻毛は、吸い込んだ花粉と受粉するから、おかげで花粉症の症状が出ることはない。マスクをして寝なくても勝手に元・鼻毛が花粉を吸着してくれるから、寝起きがずいぶん楽になった。1つ難点は、花粉と受粉した元・鼻毛は当然ながら花を咲かせることだ。毎日こまめにカットしないと鼻から色とりどりの花が咲き垂れてしまう。
また、おへそから指2本上を押すと鼻水が止まり、おへそから指3本上を押すと鼻づまりが治る。たった指1本上か下の違いだけで、出ているものが止まったり、つまっているものが出たりするのは生命の神秘にほかならない。ただ気をつける必要があるのは、このどちらかのツボを押そうと思って間違えておへそから指2.5本上を押してしまった場合、一時的に鼻がもげてしまうことだ。しばらくしたらもげた鼻が再生してくるけど、気をつけたい。
眉間から指40本下を押すと腰の痛みが和らぐ。不思議なのは僕の体の場合、眉間から指40本下は、ちょうどおへそから指2本上の場所なのに、眉間から指40本下と思いながら押すと腰の痛みが和らぎ、おへそから指2本上と思いながら押すと鼻水が止まることだ。これも生命の神秘というほかない。
また、右腕にある一番大きなホクロを押すとファミレスの店員が注文を聞きにくるし、左腕にある5番目に大きなホクロを押すと小仏トンネルを先頭に3キロの渋滞が発生する。母方の祖母の耳たぶをつまみながら、自分の脇の下を押すと妹が元気になることを発見したときには我ながら驚いた。
花粉症に効くツボを発見できたことは大成功だと言えるが、どうやら我々の体にはまだ見ぬツボがたくさん隠されているらしい。落語を創るようなツボ探しの毎日は今後もしばらくは続きそうだ。
(次回5月4日は立川談笑師匠の予定です)
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