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IT駆使、訪日外国人を地方にも ベンチャーが助太刀 酒蔵を外国語で説明/宿泊の値付け助言/カメラで客層分析

2017/9/3 日本経済新聞 朝刊

 IT(情報技術)のベンチャー企業(VB)が、訪日外国人客の獲得に力を入れる地方企業の頼れるパートナーになりそうだ。スマートフォン(スマホ)アプリで日本酒の情報を発信し、客室の単価をイベントに合わせて自動設定する。各社が提供する独自の商品やサービスは地方で激化する訪日客の争奪戦を勝ち抜く有力なツールになる。

「サケベル」は酒蔵の歴史や特徴を中国語など多言語で説明する
「ズック」をバス内などに設置すれば利用者の属性を把握できる

 訪日客の「日本酒ソムリエ」を目指す――。地方活性化の支援事業を手がけるマイベース(東京・新宿)は多言語で酒蔵を紹介し、人工知能(AI)で利用者に最適な日本酒を提案するアプリ「サケベル」の提供を10月に始める。

 政府は訪日客の酒蔵巡りを促すため酒を購入した場合に酒税を免除する制度を10月に導入する。マイベースの蔭山尊社長は「酒蔵の9割は中小企業で英語が話せる人も少ない」と語る。

 東京都福生市の石川酒造。酒税の免税制度導入を追い風に今年は前年比25%増の訪日客2000人の見学を見込む。石川彌八郎社長は「ありがたい制度」と歓迎する一方で「英語で対応は困難」として、マイベースのアプリに酒蔵案内を「任せる」ことにした。

 サケベルは地域ごとに酒蔵の検索機能を備え、酒蔵の歴史や特徴を英語や中国語で説明する。自動翻訳で日本酒の瓶のラベルにスマホをかざすと、日本語を他言語に変換。アプリをガイド役に酒蔵巡りを楽しめる。

 個人に適した日本酒を選ぶ機能もある。交流サイト(SNS)からアプリを開けば、SNSのあらゆる情報を深層学習で解析し、訪日客が一番好きな味と推定できる複数の銘柄を提案する。位置情報機能で選定銘柄の精度を向上させる機能も検討する。

 訪日客増加で宿泊施設の建設が増え、競争が激しくなっている。宿泊料金をどう設定すれば取り込めるのか。

 本日の客室単価は7980円がベスト――。都内3カ所でホテルを運営する企業の担当者はある日の朝、パソコンの画面を見てそう判断した。

 同社が6月に導入したのがITベンチャー、メトロエンジン(東京・港、田中良介社長)の客室単価設定ソフトだ。

 国内宿泊施設の予約状況、部屋や食事のレビューなどを独自のアルゴリズム(計算手法)で解析する。中国の大型連休といった季節的な情報も参考にし、訪日客の行動を予測する。宿泊する需要を先読みして料金の最適設定を行う。「勘ではなく、ビッグデータ解析で客室単価を決めてから収益が高まっている」と担当者は喜ぶ。

 台湾西側のリゾート地、澎湖(ポンフー)諸島ではあらゆるモノがネットにつながる「IoT」で島の観光を活性化させる台湾当局のプロジェクトが進行中だ。日本から参加するVBが小型ロボット開発のハタプロ(東京・港)だ。

 開発したロボットは「ズック」。カメラやセンサーを搭載して、クラウド上のAIとつながっている。島を走る観光バスの席ごとにズックを配置する。観光客の年齢や性別などの属性を把握してAIで分析、個人に合った観光情報や現地企業の広告などを発信する。

 多言語対応するズックは各国で使える。伊沢諒太社長は「日本でも提案し、訪日客を地方に呼び込みたい」という。

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■将来は地域間で勝ち負け鮮明に

 観光庁によると、訪日客の宿泊者数は5月、地方で前年同月比23%増を記録。同時期に14%増えた三大都市園の伸びを上回った。青森や群馬、香川県などは60%以上伸びた。一方で前年同月を30%以上割り込んだ県もある。数年先には地域間でも優勝劣敗がはっきりするともいわれる。

 AIを駆使したスマホアプリやロボットで地域情報を多言語で発信し、ビッグデータを解析することで行動を予測する。地方に向かう訪日客の関心を一時のブームに終わらせないため、地域の企業や自治体とITベンチャーが連携し、満足度を高め、再訪を促す努力が求められる。

[日本経済新聞朝刊2017年8月14日付]

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