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東京なのに五輪選手村は外国食材? 国産に認証の壁 農家は取得に及び腰「お金と時間かけられない」

2017/6/16 日本経済新聞 夕刊

GAPを取得するには、農薬散布の量や日時など生産工程の記録を細かく残さなくてはならない(大阪府羽曳野市のブドウ農家)

 2020年東京五輪・パラリンピックの選手村で、国産農産物が十分に提供できない可能性が出てきた。農家には国際的な安全基準などのクリアが求められているが、大会組織委員会が定めた認証の取得率は約1%。高い審査料や厳格な生産管理に及び腰の農家も目立つ。国や自治体は五輪・パラリンピックを和食PRの好機とみて、農家を後押しする対策に乗り出した。

 5月末、田植えが終わったばかりの富山県入善町の田んぼで、農業法人「ドリームファーム」の従業員らが散布した農薬や肥料の量を水田ごとに確認し、細かく記録していた。「今シーズンからコメの生産管理を今まで以上にきっちりこなす」と同社の米沢巌さん(47)は説明する。

 同法人は組織委が定めた認証を取得した農家の一つ。組織委は東京五輪・パラリンピックの選手村の食堂や会場に設置する飲食店で提供する食材について、農薬の適正使用などを定めた「農業生産工程管理(GAP)」と呼ばれる認証の取得を条件とした。だが、取得したのは全国の約1%、約4500農家にとどまる。

 取得が進まない背景にあるのは認証にかかる費用と基準の維持に必要な労力だ。認証を維持するには毎年30万円以上の更新費が発生する場合があり、作業のたびに生産の管理記録を詳しくつけるのも簡単ではない。新潟県十日町市でニンジンなどを作る野菜農家は「そんなに金と時間をかけられない」と不満を漏らす。

 特に畜産農家は安全性だけでなく、動物愛護の観点から肥育環境の整備を求められる場合もあり、五輪・パラリンピックで国産肉の提供が少なくなる可能性もあるという。

 危機感を募らせているのは五輪・パラリンピックで世界に和食をPRしたい国や自治体だ。農林水産省の担当者は「12年のロンドン大会では英国産の食材が提供できず輸入品に依存していた。同じ轍(てつ)は踏まず、可能な限り国産を提供したい」と強調する。

 自民党と農水省は5月、19年度末までにGAP取得件数を現在の3倍以上に増やす方針を決定。農水省は16年度の補正予算で10万円以上かかる認証の審査料を助成する制度をつくった。

 そうしたなか、福島県は5月中旬、20年度までに認証取得数の日本一を目指す「GAPチャレンジ宣言」を発表。農家に指導できる人材を育てて、県内の作付面積の51%以上で認証を得る目標を掲げた。岐阜県も特産品の飛騨牛のほか、トマトなど11品目を重点食材として取得を呼びかけている。

 大阪府羽曳野市は農協と連携してデラウエアなど地元名産の食材でGAPを取得できるように指導している。

 GAP認証の取得を支援するコンサルティング会社「ファーム・アライアンス・マネジメント」(東京・千代田)の松本武社長は「認証の取得は五輪のためではなく、10年後、20年後の日本の農業のためという発想を政府や農家が持つ必要がある」と話している。

GAP
 農産物の安全認証で「よい農業の方法(Good Agricultural Practice)」の略。農薬使用量や栽培に使う水の質など、様々な項目に合格した農家が得られる。認証団体は複数あり、欧州で普及する「グローバルGAP」やカナダの「カナダGAP」が有名。日本では2006年に設立された日本GAP協会(東京)が「JGAP」を創設した。
 認証農家は安全性を国際的にアピールすることで取引の増加が期待できる。日本が国外へ出荷する際に輸出先から求められることもある。

[日本経済新聞夕刊2017年6月12日付]

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