お供えで母子家庭支援 奈良の脱サラ僧侶3人衆
寺へのお供えを母子家庭などに届ける「お寺おやつクラブ」の(右から)松島、桂、吉本さん(奈良県田原本町の安養寺)
「ナームアーミダーブ、ナームアーミダーブ」
7月下旬、奈良県田原本町の安養寺の本堂で住職の松島靖朗(39)ら3人の僧侶が念仏を唱え、木魚の音が響く。汗だくで読経を終えると、「ゼリーは喜ばれそうやなあ」「こっちにもジュース入れてあげよう」と、おかき、クッキーなどのお供えを5つの段ボール箱に詰め始めた。送り先は生活に苦労する母子家庭や支援団体だ。
きっかけは昨年夏、母子家庭の聞き取り調査を始めた「大阪子どもの貧困アクショングループ」(大阪市)を新聞記事で知ったことだった。
グループは昨年5月に大阪市北区のマンションで「子供にもっといいものを食べさせたかった」という趣旨のメモを残して餓死したとみられる母親(当時28)と男児(同3)の遺体発見を受けて発足。グループの調査で困窮して子供におやつを我慢させるなど母子家庭の実態も分かり、記事を読んだ松島は「お寺に余るほどあるお供えを役立てたい」と申し出た。
大手IT企業時代の経験生かす
「お寺の子」。奈良の寺で生まれ育った松島は重圧から逃げるように東京の大学へ進み、2000年にNTTデータに入社。「普通の暮らし」を求めて上京したものの、多忙な生活に「これが自分らしい生き方なのか」との問いが膨らんだ。「僧侶としてユニークに生き直そう」。サラリーマン9年目の08年、故郷に戻った。2年半の修行を経て新米僧侶になった。
檀家を回る傍ら、宗派を超えて若手僧侶でホームページを立ち上げるなどサラリーマン時代に培った技術をフル活用した。「情報と人をつなぐIT(情報技術)の前職と、仏さまと人をつなぐ僧侶の役割は同じなのでは」。そう感じ始めたころに知った子供の貧困。「お寺のおやつと母子をつなぐ媒介者になろう」と思い立った。