NY和食のサムライ4人、「おまかせ」で挑む
世界の食が集まるニューヨーク。なかでも近年、本物志向の和食の人気が高まりつつある。"にせもの"が氾濫するなか、ニューヨークの新進気鋭の人気和食シェフ4人が集まり、食通のニューヨーカーにこん身の「本物の日本食のコース」を振る舞った。旬の食材をふんだんに使った「おまかせ」を根付かせようと"和食のサムライ"が腕を振るった。
おしゃれなブティックが集まるニューヨークのソーホー地区。ひっそりとした門構えの和食レストラン「ひろ久」に27日、4人の日本人シェフが集まった。それぞれが1皿1皿考え抜き、ひとつのコースとして顧客に提供するイベント「プライド・オブ・ジャパン」が始まった。
コースはテーブル席で税・チップ抜きで200ドル(約2万550円)、カウンター席で250ドルと安くはないが、限定44席は即時完売。ウエーティングリストには110人が名を連ねた。
音頭をとったのはすし店「なか嶋」の中嶋邦英氏と「1 OR 8」の吉田一男氏。そしてもつ鍋「博多トントン」の萩原好司氏と「ひろ久」の林寛久氏が加わった。
4人がコラボレーションしたコースの口火を切ったのは林氏。あぶったゴマ豆腐に日本から空輸したウニが載る。米国にいることを忘れさせる"日本の味"だ。その後、萩原氏のフォアグラのフレークをまぶしたカモのロースト、林氏のだしのゼリーとカニとキャビアなどが続く。
すしは「なか嶋」の江戸前ずし、合間に萩原氏のミョウガやキュウリなど夏野菜とアワビの1品があり、吉田氏による少し創作を加えたすしが並ぶ。すしのネタはヒラメやトロ、ボタンエビ、ノドグロなど日本から空輸した。しめは作りたての林氏による自家製そば。デザートはわらび餅と白ごまアイスでさっぱり。
シェフたちは作業の合間に客席に声をかけて回る。ニューヨークの和食店には日本人が多く訪れるが、今回のイベントの顧客は8割が日本人以外だ。49歳男性は「自分も洋食のシェフだが、和食は新鮮な食材を使い、うまみ成分がたくさん入って、あっさりしていてバランスがとれている」と絶賛する。
「和食は少なくとも週1回は食べている」という23歳の不動産業男性も「"おまかせ"は大好き。シンプルで芸術的で、値段は高いけどその価値はある」と納得。「とてもいい経験」と満足げだ。
「政府の力を借りず、自分たちの腕で本物の日本食を広めたい」という吉田氏。シェフ同士の親睦会で自分たちだけで何かできないかと話題にしたことがきっかけだった。普段は1人で仕切るが、4人で協力してひとつのコースを作り上げるだけに「1人でやるよりも楽しい」(中嶋氏)。同時にライバルの腕前を至近距離で目の当たりにするだけに「とても気になるし、緊張感もある」(吉田氏)。次回は11月に開く予定だ。
米国のスーパーでは日本では見たことがないような派手な「スシ」が並ぶが、東京の高級店にも引けをとらない和食の人気と知名度も高まりつつある。ニューヨークで腕一本で勝負するシェフたちが、海外で日本の食文化を支えている。
(ニューヨーク=高橋里奈)
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