マネー研究所

マネートレンド

ノーベル経済学賞、受賞を逃した学者たち 編集委員 前田裕之

2014/10/13

今年のノーベル経済学賞は仏トゥールーズ第1大学のジャン・ティロール氏の受賞が決まった。1969年のスタート以来、米国優位の流れが続き、「なぜ、この人が生前に受賞できなかったのか」と惜しまれる学者も多い。先月死去した宇沢弘文・元東大教授はその一人といえる。「ノーベル経済学賞を逃した学者たち」の顔ぶれを思い浮かべると、同賞の限界も見えてくる。

過去の受賞者をおさらいしよう。60~70年代は毎年1~2人程度で、ポール・サムエルソン、ジョン・ヒックス、ワシリー・レオンチェフ、フリードリヒ・ハイエク、ミルトン・フリードマンら「経済学の巨人」と呼ばれる大御所が順番に受賞している。この当時は米国人の受賞は全体の約3割で、オランダ、英国、スウェーデンなどの国籍を持つ学者も受賞した。

■成長モデルは現在も経済学の教科書に

初期の受賞者に名を連ねていないのはおかしい、と専門家の間で話題になるのが、英オックスフォード大で教えた英国人のロイ・ハロッド(1900~78)だ。ジョン・メイナード・ケインズの弟子であり、マクロ経済の動学分析に道を開いた。「ハロッド=ドーマー・モデル」と呼ばれる成長モデルは現在も経済学の教科書などで紹介されている。不完全競争の理論や国際経済・金融論にも多大な業績を残した。なぜ、ハロッドは受賞を逃したのか。ハロッドの経済動学は、資本主義の安定性に疑問を投げかける「危険な理論」と解釈できるため、とみられている。

同様な文脈でよく名前があがるのが、やはり英国人のジョーン・ロビンソン(1903~83)である。ケインズ経済学の正統な継承者を自任し、独占的競争の理論を構築した。企業は生産要素を自由に変えられると仮定する米国の経済学者たちに反論し、固定的な生産要素を前提に投資理論を展開。サムエルソンやロバート・ソローとの間で、「ケンブリッジ資本論争」を繰り広げ、専門家の間では「論争に勝った」とされている。しかし、米国のケインズ経済学者たちを「偽りの経済学者」と厳しく批判し、晩年には中国の共産主義革命に賛同するなど反資本主義・自由主義の姿勢を強め、受賞から遠ざかった。

米イースタン・ワシントン大教授のトーマス・カリアー氏は『ノーベル経済学賞の40年』の中で、ジョーン・ロビンソンと並んで、受賞を逃した巨匠として米国のリベラル派経済学者の代表格であるジョン・ケネス・ガルブレイス(1908~2006)の名をあげる。「彼は貧困や所得分配や失業など、社会が直面する諸問題の研究に取り組んだ」と指摘したうえで、「選考委員会のメンバーにとって、ガルブレイスはリベラルすぎて、数学的でない、ということだろう」と断じている。

マネー研究所 新着記事

ALL CHANNEL