猛暑、3つの条件そろう 来週には一服?編集委員・気象予報士 安藤淳

日中の最高気温が35度以上の猛暑日が「これでもか」というくらい各地で続いている。夜間も気温が下がらず寝苦しい。上空の偏西風の蛇行、太平洋高気圧の張り出し、勢力の強い台風の存在という、日本付近に熱波をもたらしやすい3つの条件がちょうどそろった。週末には「普通の暑さ」に戻り、来週は一部で曇りがちの不順な天候になる可能性も出ている。

6日連続の猛暑日となる厳しい暑さが続く東京都心で見られた「逃げ水」(5日、東京都千代田区)=共同

今夏は熱帯太平洋でエルニーニョと呼ばれる現象が、近年では珍しいほどはっきりと現れている。ペルー沖など熱帯太平洋東部で海面水温が平年よりも高め、日本の南方を含む西部で低めになる現象で、世界の天候に大きく影響する。日本では「エルニーニョ=冷夏」と考えられているが、少なくとも現時点でこの法則は成り立っていない。「話が違うじゃないか」と思う人も多いだろう。

猛暑は日本だけではない。普段なら高原の夏を思わせるさわやかな暑さのパリやベルリンなどでも、30度以上の日が続出している。7月にはフランスの一部地方で40度を超え、ドイツのデュッセルドルフで37度台を記録した。カリフォルニア州では干ばつで山火事が広がっている。東京大学の中村尚教授は、エルニーニョという熱帯の現象以上に、中緯度帯を西から東へ進む大気の変動(波)が大きく影響しているのではないかと考える。この波は、上空を吹く偏西風の蛇行に対応する。欧州で発生した波が徐々に東進し、日本付近に到達した。この結果、日本の上空では偏西風が北側に盛り上がり、南から暑い空気が流れ込みやすくなっているという。

偏西風の蛇行は、太平洋高気圧の勢力が北へ広がるのを促す効果もある。この状態がしばらく続くだけでも十分に暑いが、台風13号がさらに状況を悪化させている。中心の気圧は8月4日に900ヘクトパスカルまで下がった。これだけ強力な台風がゆっくり西へ進んでいると、周囲の大気への影響は無視できない。台風に伴う強い上昇気流で持ち上がった空気は、少し離れた場所で下降気流となり、高気圧を強める。太平洋高気圧が日本付近まで勢力を広げる一因となっている。天気図で気圧配置を見ると、日本を覆う高気圧の等圧線の形が鯨のしっぽのようだ。昔から「鯨の尾型」と呼ばれ、猛暑をもたらすとして注目されてきた。

偏西風の蛇行、太平洋高気圧の張り出し、強力な台風の西進という、猛暑の引き金となる3つの「立役者」がちょうどそろったのが現在の状況といえる。それぞれ自然変動としてはよくみられ、特別に珍しい現象ではないが、互いに効果を強めるような方向に影響を及ぼし合った。自然変動がもたらした「偶然」の産物によって、エルニーニョの効果が薄められてしまった可能性がある。スーパーコンピューターによる計算技術が発達しても、こうした変動の発生と移動を正確に予測するのはとても難しい。「もしエルニーニョが発生していなかったら、もっと厳しい暑さだった可能性もある」(中村教授)。そもそも、近年はエルニーニョの影響が教科書通りに表れるケースが減っているとの研究もある。

東京では猛暑日の日数が8月4日で5日連続となり、実に140年ぶりに記録を更新した。ほかにも新記録を出した地域がいくつかあり、「異常なこと」が起きていると思いたくなる。新記録が出る背景には、数日から10日単位の大気の流れの変化だけでなく、地球の気温が全体として高くなっていることもありそうだ。米海洋大気局(NOAA)のまとめでは、今年1~6月の地球全体の平均気温は猛暑の地域が多かった2010年の記録を更新し、過去最高となった。陸地の気温、海面の水温のいずれも記録的な高さだった。

ベースとなる気温が高いところへ、少し大きな自然変動が重なれば、過去の記録を破ることはそれほど難しくない。「全体がゲタを履いたような状態になっているので、すぐに猛暑になる」(気象庁気候情報課の竹川元章予報官)。たとえば30年前と同じような変動が重なったとしても、気温は過去に比べてかなり高くなりうる。

気象庁では1981~2010年の平均気温を平年値と呼んでいる。暑いことでよく知られる熊谷(埼玉県)の8月の1カ月平均気温の平年値は26.8度だ。これは、2011年5月まで使っていた旧平年値(1971~2000年の平均)よりも、0.4度高い。熊谷の気温は以前に比べて0.4度分だけゲタを履いていることになり、その分だけ35度を超える猛暑日も現れやすくなる。

東京の場合、事情はもう少し複雑だ。観測場所を、14年12月に高速道路高架脇の気象庁の敷地から、木々の多い北の丸公園に移したからだ。8月の日平均気温は0.2~0.3度下がった。比較観測の結果によると、最高気温が30度以上の真夏日の日数はほとんど変わらないが、猛暑日ははるかに少ない。もし、以前の場所で観測を続けていたら、東京の猛暑日の連続日数はさらに多くなっていたかもしれない。

この猛暑、いつまで続くのだろうか。自然変動は今回のように気温の大幅な上昇をもたらすが、逆に気温をかなり押し下げることもある。気象庁の予測計算では、どうやら記録的な暑さにも終わりが見えてきた。日本付近の上空を吹く偏西風の蛇行は今後、はっきりしなくなり、太平洋高気圧の張り出しも弱まりそうだ。気象庁気候情報課によると、北日本などに冷たい風を送り込むオホーツク海高気圧が現れる可能性があるという。「そのまま秋雨の兆しが出るのでは」とみる専門家もいる。もっとも、今後の台風13号の勢力や進路次第では、予測が大きく変わるかもしれない。

海洋研究開発機構のグループはインド洋にも注目している。インド洋西部で海面水温が平年より高く上昇気流が活発になり、東部で水温が低めで下降気流が起きやすくなる「インド洋ダイポールモード現象」が起きつつあるからだ。この現象は日本の南海上で高気圧を強め、猛暑をもたらしやすいパターンとして知られる。太平洋高気圧の日本付近への張り出しが弱まるとされるエルニーニョ現象とは逆だ。秋にかけてインド洋ダイポールモードが強まれば、残暑が厳しくなる恐れもある。熱中症対策は引き続き怠らないようにしたい。