野球部の熱血監督は家庭科の先生 神奈川・大師高校Wの未来 俺に任せろ

野球部の熱血監督でありながら授業では家庭科を受け持つ――。そんな珍しい男性教諭がいると聞き神奈川県立大師高校を訪ねた。

「おまえ、昨日言われたことが全然、できてねーじゃねーか」。2014年8月28日、雨でぬかるんだグラウンドで苛烈な言葉が飛んでいた。大師高校の野球部で監督を務める野原慎太郎(32)の指導は想像以上に厳しかった。

それもそのはず。野原は高校野球の名門である東海大相模高校でピッチャーだった。高校3年の春には甲子園に行き全国制覇も果たした。しかし、控え投手だった野原には登板の機会は回ってこなかった。

甲子園のマウンドを踏めなかった野原は「甲子園のブルペンだったらよく知っていますよ」と話す。表舞台で活躍できない選手のつらさがいやというほど分かる。「だから良かったとも思っている、こいつらの気持ちにもなれるから」と、大師高校の野球部の生徒たちに熱い思いを持つ。

部員を指導する野球部の野原慎太郎監督(川崎市川崎区の大師高校)
家庭科の授業を担当する野原教諭

学校が好きだった野原は高校を卒業すると、教員養成課程がある横浜国立大学教育学部に入った。はじめは小学校の先生になるつもりだった。だが、大学1年の時に家庭科のジェンダー論の講義を受けて、それまでの見方が百八十度変わった。

野原の父はいつも帰りが遅かった。家事をしている姿もほとんど見たことがない。母はほとんどの家事をこなしながらパートタイムで働いた。そうした両親をみて育った野原は「男は男らしく。家事といったらイコール主婦の仕事というステレオタイプがあった」という。

「男は仕事、女は家事」の価値観、大学で変化

身近によくみる性別による役割分担が必ずしも必然的なものではないことを授業では学んだ。従来の自分の考え方と相いれない価値観に驚いた。「“家事は女性”という考え方は、専業主婦を良しとする教育の中で再生産されてきているのではないか」。世界の見方が変わり、新しい視点を提供する家庭科の学びに興味が湧いた。

中学、高校の恩師に「男が家庭科の先生でも、おかしくないか」と相談した。返ってきた答えは「おもしろいね。やってみなよ」。大学2年になるとき家庭科を専攻に選んだ。専攻の学生10人のうち男性は野原ただ1人だった。「家庭科がおもしろくなければ、普通に小学校の教諭になろう」と考えた。しかし、結局、大学院まで進み家庭科教育学を修めた。