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「観光立国」の虚実 クルーズ船が来ても乗客は素通り ハコモノ偏重でひずみ、カジノ解禁は渡りに船?

2017/9/9 日本経済新聞 朝刊

SSVの乗客の大半は、清水港から離れた場所にあるアウトレットモールに向かう(静岡市)

 東京五輪・パラリンピックがある2020年までに訪日外国人を4000万人に――。そんな掛け声のもと、政府はクルーズ船が着岸できる港など環境整備を急いでいる。人口が減少する地方の活性化につながるという思惑もあるが、「観光立国」の理想とは異なる実態も見えてきた。

■中国人観光客、アウトレットに直行

 待っていたのは、肩すかしの現実だった。

 7月31日朝、静岡市の清水港に、香港の会社が運航する大型船「スーパースター・ヴァーゴ(SSV)」が入港した。全長270メートルにおよぶクルーズ船。下りてきた乗客のほとんどは、中国人観光客だ。

 次々と大型バスに乗り込み、向かった先は港町・清水、ではない。車で約1時間のアウトレットモール。中国人女性の一人は「出航は午後2時。港近くで買い物? そんな時間ない」と話した。

 「国際旅客船拠点形成港湾」。国から仰々しい肩書をもらった清水港。17年度のクルーズ船の寄港数は43回、16年度より3倍近く増える。

 身銭も切った。静岡県は岸壁使用料をゼロにして船を誘致した。年数千万円の使用料は入らない。肩書をもらおうと、県や市の関係者が国に陳情した数は、数え切れない。

 港から歩いて15分ほどの商店街で、眼鏡店を営む春田英行さんに聞くと「クルーズ船の恩恵? 99%ない」。7月10日のSSV初入港時、港で船を出迎えていた出店は20ほどあったが、わずか20日で1店に減った。

 安倍晋三首相は、観光政策は成長への大きな柱で「地方創生の切り札だ」と強調する。

 では港が整えば人は来るか。施設を造れば消費は増えるか。机の上の計画や「ハコモノ神話」に引きずられれば、当然、目標への道のりはゆがむ。

■突如浮上の出国税案、ばらまきの芽?

 日本有数のものづくりの街、愛知県。大村秀章知事は8月1日、カジノを中心とする統合型リゾート(IR)の誘致に参戦すると明らかにした。中部国際空港島(常滑市)を候補地とした。

 IRに約15ヘクタールの土地を使い、用途変更で10ヘクタール分の土地を追加拠出できるという。「やっぱり海を埋め立てると土地が高くなる。売るのに苦労している」(大村知事)。過去の開発行政の負の側面、広大な土地を持て余していたお家事情が透ける。

 県は3日、有識者を集めたIRの研究会をすぐに開いた。年内に複数回開いて考え方をまとめる方針だが、これまで人気薄の土地がIRだと急に売れるのだろうか。

 どうもきな臭さが漂う政策も浮上する。通称「観光特定財源」こと、出国税構想。日本から出発する時に訪日客からお金をいくらかもらい、地方の観光資源の整備に回す構想らしい。

 さて、どうお金を集めよう。観光目的の訪日客だけ抜き出せますか。まさか日本人も対象ですか。旅行業界は「金額によっては流れに水を差す」と話していますが。そもそも、地方のお金では足りないのですか。

 ふつふつとわく基本的な疑問点を観光庁にぶつけてみたところ「もろもろ研究中」、だそうだ。財務省も税収増につながると期待しているかと思いきや「新税はそんな簡単じゃない」。思惑先行、霞が関お得意の言いっ放しか。いや、観光振興や地方創生を名目にしたバラマキの芽がどこかで確実に育っている。そう考える方が自然だ。

(池田将)

[日本経済新聞朝刊2017年8月22日付を再構成]

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