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「企業の不正は必ず漏れる」 IR担当必読書の著者語る 金融・旬の一冊(八田進二著)

2017/9/7

有価証券報告書提出に伴う記者会見を終えた東芝の綱川智社長(8月10日、東京都港区)

 東芝や三菱自動車など日本の大企業で近年、次々と情報開示を巡る不正が発覚した。企業に対する信頼がゆらぐなか、企業の投資家向け広報(IR)担当者の間で「必読書」とされる本が「開示不正 その実態と防止策」(2017年6月、白桃書房)だ。会計監査や内部統制研究の第一人者である著者の八田進二・青山学院大学大学院教授に日本企業が抱える問題や打開策について聞いた。

「経営者に読んでほしい。この本は受験でいえば『赤本』」と語る八田進二・青山学院大学大学院教授

 ――IR担当者に非常によく読まれています。

 「12の事例のうち9つは消費者に身近な開示不正を取り上げた。当初、私が一番関心を持ったのは『不正会計』だったが、オリンパスや東芝など会計不祥事を扱った本は既に多く出ている。私が所属する日本ディスクロージャー研究学会でも『世の中で注目されるもっと生活の身近な不正を取り上げるべきだ』との話になり、構想から2年がかりで出版した。賞味期限の改ざんやメニュー偽装、燃費不正など消費者に身近な不正は枚挙にいとまがない」

■「第三者委員会は機能していない」

 ――不祥事企業の多くは第三者委員会を設置し、調査報告書という形で検証をしています。

 「私はほとんどの第三者委員会は信用できないと考えている。莫大な費用をかけて調査するのに多くは問題の経緯を説明するだけで『内部統制が機能していなかった』と結論づけて調査報告にしている。きちんと役割を果たしているとはいえない」

 「一口に内部統制の機能不全といっても、社長の考え方によるものかリスク評価の甘さが原因か、情報が正しく伝わらなかったためなのかなど背景は色々ある。立場そのものが第三者といえるかわからない人間が委員になっている『第三者委員会』もある。中立的な立場の調査とは到底いえない。失敗した事例の教訓をきっちり示し、今後に生かせる本を作らなければならないと思った」

「開示不正 その実態と防止策」(2017年6月、白桃書房)。「12の事例のうち9つは消費者に身近な開示不正を取り上げた」(著者の八田氏)

 ――日本企業不正が相次いでいる背景には何があるのでしょうか。

 「経営者の資質や企業風土、情報遮断の影響が大きい。例えば経営者は社外で言っている内容と社内で言っていることが違う人がいる。そういう経営者はもし発覚前に自分で『あってはならない』ことを見つけたら、隠蔽して見て見ぬふりをする。残念なのはそういった事例が、名門とされて誰もが名前を知っている企業でも続々発覚していることだ」

 「しかも日本の企業では情報が上下や内外に正しく伝わらない『情報遮断』が起きやすい。日本人は与えられた責務をしっかり全うするが、情報をきちんと伝達することにはたけていない。直属の部長に報告するとえてして『こんなの専務に伝えたら俺までクビだ。聞かなかったことにしよう』となる。部下は特に反論もせず、うやむやになる。組織への帰属意識が強い日本人らしさが隠蔽につながっている面もある」

■外部告発が目立つ理由

 ――それでもここにきて不正が発覚する例が増えています。

 「今後、会社で起きる不正は絶対漏れる。面白いデータがある。私が大学院の講義で学生に『あなたが会社に入って長年不正が行われていると知ったらどうするか』と質問した時、実に6~7割の学生が『外部に不正を告発する』と答えた」

 「いまの30代より下の世代は組織に対する帰属意識が薄い。『自分の生活を大事にしたい』『組織のために命を賭ける』などとは考えていないのだろう。結果としてマスコミや行政、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)経由で外部に発信されている。実際、食肉偽装のミートホープではマスコミへの告発によって問題が発覚した。昔はまずは直属の上司に報告するのが当たり前だったが、現在は『社内で告発しても握りつぶされてダメだ』と多くの人がわかってきたのだろう」

 ――今後、日本企業や経営者に求められるのは何でしょう。

 「本書にも多く出てくる『アカウンタビリティ』が重要だ。『説明責任』と訳されるが、日本では会見を開いて情熱的に語ることだと勘違いされている節がある。エビデンス(証拠)をもとに責任を持ったディスクローズ(開示)をするという意味が正しい」

 「そのためには内部統制の網をくまなく張り巡らし、日ごろから弱点や欠陥をきめ細かく吸い上げなければならない。問題が大きくなってからでは遅い。早い段階で防止策や是正策を講じることが大切だ。経営者には、内部統制は規制ではなく、自分を守ってくれる仕組みだということを理解してほしい」

 ――読んでほしい人は誰ですか。

 「やはり経営者だ。この本は受験でいえば『赤本』。過去問集として読み解き、経営に生かしてほしい」

〔日経QUICKニュース(NQN) 聞き手は松井聡〕

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