世界初の仮想通貨建て社債、英で登場 利回り10%仮想通貨の実相(13)

世界初の本格的な仮想通貨建て社債が英国から登場した。仮想通貨の社債はこれまで試験的に発行された例はあるが、企業が正式に資金調達の手段として用いるケースはなかった。発行から期日管理まで完全に自動化できる仮想通貨社債は発行コストがゼロに近い。信用力は高くてもコスト面で二の足を踏んでいた中小企業にも、新たな資金調達の道が開けるかもしれない。

英ネット企業がイーサリアム建てで発行

今回社債発行に踏み切ったのは、高級家具や英国王室御用達の老舗陶磁器ブランド「ウエッジウッド」などのネット販売を手掛けるLuxDeco(ラックスデコ)。11月22日、仮想通貨イーサリアム建ての社債を発行したことがこのほど明らかになった。英ロンドン発のブロックチェーンベンチャー企業、Nivaura(ニヴェウラ)が自動発行のプラットフォームを提供した。

ニヴェウラのアブター・セラ最高経営責任者(CEO)は仮想通貨社債について「最大の魅力は発行コストがほぼかからないこと」と力説する。発行登録書などの必要書類をすべて読み込み、投資家とのディール(取引)やカストディー(資産の管理・保管)業務まで一貫してブロックチェーン上で完結する。人間がかかわらないので人件費はかからない。送金コストも低く済み、ブロックチェーンが有する情報の相互監視機能で透明性や正当性も保たれる。

金融とIT(情報技術)を融合させるフィンテック分野では政府の支援体制も重要になる。野放しにしすぎれば詐欺まがいの行為を促しかねない半面、規制を強めすぎると技術革新の芽を摘んでしまう。日米欧ともにそのさじ加減には苦慮しているとみられるが、解決策の1つが「レギュラトリー・サンドボックス」(規制の砂場)だ。革新的な事業に対しては現行法の規制を一時停止する仕組みで、英国が2014年に導入し日本でも検討が進んでいる。ニヴェウラは英金融行為規制機構(FCA)のチェックのもと、レギュラトリー・サンドボックスの適用を受けている。

ニヴェウラはプロジェクトを進める前に英ポンド建て債を発行し、債券取引の代用サービスに使う「トークン」のテストを済ませた。満を持して発行したイーサリアム建て債券の利率は年換算して10%と、英ポンド建ての2.5%と比べて高く設定。イーサリアムの価格変動リスクを上乗せし、償還までの期間も7日と短くしている。発行や条件決定のノウハウはJPモルガンや米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスの協力を仰いだ。

格付け未整備、日本では冷ややかな見方も

ニヴェウラのセラCEOは償還や支払いに関し、「イーサリアムの価格がどんなに変動しても発行体は登録書に記載した通りの額を償還し、利払いをしなければならない」と強調する。通常の社債償還・利払いと何ら変わらないというわけだ。

イーサリアムは取引記録だけでなく、いつ誰に送金したかなど詳細な契約内容を管理でき、「スマートコントラクト」と呼ばれる自動決済サービスとの相性が良い。投資家のメリットは大きい。社債市場での需要拡大に期待してイーサリアムのドル建て価格は日本時間11月28日480ドル前後まで上昇し、過去最高値を更新した。

仮想通貨建て債は日本にも広がるのだろうか。「現状でも低利調達が可能で、投資家需要やシステムが確立しないうちは日本に広がるとは考えにくい」(みずほ証券の香月康伸シニアプライマリーアナリスト)との冷ややかな見方が出ている。仮想通貨に「適正価格」の物差しがなく、格付けなどの尺度が未整備とあって、投資家がすぐに手を出せる金融商品とはまだいえない。

それでもITベンチャーは意気軒高だ。ニヴェウラのセラ氏は「日本企業に対してもイーサリアムやビットコイン建ての社債発行の機会を探りたい」と話す。仮想通貨取引の厚みが増す日本で、リスクをとってでも高い利回りを求める個人などが好条件の仮想通貨債に食指を動かしても特に違和感はないだろう。日本に本格的な仮想通貨建て社債が上陸する日はそう遠くなさそうだ。

〔日経QUICKニュース(NQN) 尾崎也弥〕

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仮想通貨の実相」はビットコインやイーサリアムの取引現場での最新トピックや関係者の発言を紹介します。掲載は不定期です。

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