チャート分析を駆使 16年の円高を的中させた2人すご腕為替ディーラーの至言

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「伝説のディーラー」と呼ばれるほどの人物はしばしば神がかった勝ち方をする。極意は何か。外国為替取引にかかわる者なら誰もが知りたいところだろう。「すご腕為替ディーラーの至言」、今回はワカバヤシエフエックスアソシエイツ代表取締役の若林栄四氏と川合美智子氏。若林氏は「大相場」に強い。チャート分析を駆使する2人は、最近では2012年の円高局面の終了や、16年の1ドル=100円を超える円高を的中させた。

黄金分割で「神意」探れ 若林栄四氏

相場を占ううえでは「人気、日柄、値ごろ」の3要素が欠かせないと考えています。ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)をマクロ、ミクロで分析し、市場を総合的に判断する目は必要でしょうが、それだけでは勝てません。相場は生き物です。呼吸をきっちり把握して売り買いのタイミングを見極めないと、持ち高形成に失敗し思わぬ損失を抱えかねません。

かつて大相場で勝利したジョージ・ソロスのように、資金力にものをいわせて収益をあげる手法は確かに有効ですが、そうした「人為」は短期間しか通用しないでしょう。「相場は相場に聞け」なのです。理屈では説明できない「神意」にどれだけ迫れるかが勝負の分岐点になる。そう信じています。

エコノミストやストラテジストはファンダメンタルズ分析などに偏った先入観が強すぎます。先入観で相場を予想するから当たりません。相場は様々な力学でランダムに動くので、前提を決めて臨む演繹(えんえき)法ではたいてい痛い目にあうのです。

大切なのは既に起きている事象から考えていく帰納法のアプローチではないでしょうか。混沌の中にもルールは必ず存在します。そのやり方の1つがチャート分析の手法である、38.2%、61.8%などの比率を用いた黄金分割です。黄金分割に基づき上値と下値のメドを計算すると、例えばニューヨークの原油先物は1バレル100ドル超でピークを付けた2008年からの下落トレンド(基調)がまだ終わっていません。産油国などからの資金流出をきっかけにリスクマネーが収縮すれば、経常黒字国の円に上昇圧力がかかります。ドルの対円相場は1ドル=100円を再び大きく下回る可能性が高いとみます。

リスクマネーは縮小が不可避

米連邦準備理事会(FRB)は緩和に傾きすぎていた金融政策を正常化しようとしています。利上げやバランスシートの削減をゆっくりと進める方針を表明してはいるものの、マネー縮小の影響を過小評価してはいけません。

FRBは過去100カ月にわたった米景気の拡大や米株高がこの先も続くとは考えていないはずです。株式相場などがソフトランディング(軟着陸)できるとの楽観論も持っていないでしょう。でもうまい対処法は現段階では見つかりません。米株安とマネー収縮に伴う円高・ドル安には備えておくべきです。

若林栄四
1966年に京大法学部を卒業後、東京銀行に入行。シンガポール支店や本店、ニューヨーク支店で為替畑を歩み、87年に勧角証券アメリカ(現みずほ証券)執行副社長を経て独立した。ニューヨークを拠点にファイナンシャル・コンサルタントとして活躍する傍ら、日本では外為コンサルタント会社のワカバヤシエフエックスアソシエイツを運営する。

愚直にチャートを追え 川合美智子氏

若林さんは国内においてテクニカル分析をディーリングに取り入れた先駆けだと思います。ディーラーにチャートを見る習慣などほとんどなかった1980年代、若林さんがまず一目均衡表などを研究し、勝率を上げるようになると他のトレーダーたちも関心を持ち始めたのです。

80年代前半までの日本には投機資金の流入を防ぐための「実需原則」があり、先物を伴う為替取引は輸出入の実需に基づかなければなりませんでした。そうなると当時、「外国為替専門銀行」の看板を掲げていた旧東京銀行は有利。事業法人の注文が集まるので市場の需給環境がよくわかり、チャートやファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に詳しくなくてもそこそこ利益を上げられました。

ところが84年に実需原則は撤廃されます。海外ヘッジファンドなどの投機筋の参戦で市場規模は拡大し、実需を眺めているだけでは太刀打ちできなくなりました。新たな活路を見いだそうとしてのめり込んだのがテクニカルだったわけです。

オセアニア市場の値動きを除く

チャートはシンプルにトレンドライン(ローソク足の高値同士、安値同士を引いた線)をチェックします。支持線や抵抗線を確かめる目的で長めの移動平均線もウオッチするものの、愚直にトレンドを追いかけていく姿勢は変わりません。

チャート分析をするうえでこだわっているのは、週初の日本時間の早朝、オセアニア市場の値動きを除くことです。欧米の市場参加者がいない週初の早い時間帯では取引に厚みがなく、まとまった規模の注文に振り回されて「異常値」を記録しがち。トレンドを判断するには不適切でしょう。

ただまったく無視もできません。相場のモメンタム(勢い)の観点では、異常値がもたらすチャート上の「窓」にはそれなりに意味があります。窓埋めに失敗したり時間がかかったりすると市場参加者はモメンタムの強さを意識せざるを得ず、トレンドに影響を及ぼすのです。例えば1週間たっても窓が埋まらなければトレンドは2カ月もつといった経験則がよく聞かれます。

チャートの手書きは今でも使える

コンピューターが発達していなかったころ、ディーラーは日々の相場水準を日々ノートなどの紙に記録していました。新聞やファクスに並んでいる数値情報を目で追い、「相場表」に書いていくと記憶に定着します。実際、若林さんも私も昔のことはよく覚えているのです。いちいち検索しなくてもすぐ思い出せます。

ディーリングの分野にもあちらこちらにコンピューターが席巻する時代になりました。でも、為替は思いもよらない動きを繰り返すケースが多く、スピードに勝る機械といえどもすぐに優位にたてる世界ではないはずです。手書きの相場表やトレンドライン引きといったローテクな手法でもうまく使いこなせば勝てます。

川合美智子
東銀でカスタマー・ディーラーを務めた後に外国銀行に転じ、外為ストラテジストや 為替資金部長を歴任。若林氏のもとでケイ線分析を研究し、その後の相場予想に生かした。現在も外為ストラテジストとしてケイ線分析に基づく為替リポートの配信や、外為証拠金(FX)会社のセミナーをこなす。

【記者の目】

若林氏が語る帰納法は「行動経済学」のアプローチに近いとの印象を受ける。「相場は常に正しい」とよく語られる通り、既に起こっている事柄に真摯に向き合う姿勢は、ディーラーとして実績を残すために必要不可欠な条件だろう。若林氏のように「人為よりも神意」と言い切ることには賛否分かれそうだが、数多くの修羅場をくぐり抜けてきた大ベテランの言葉は傾聴に値する。

〔日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 今晶〕

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