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マネー研究所
NQNセレクション

2017/10/5

NQNセレクション

「とはいえ、それはかなり先の話だ。最近の仮想通貨ブームを見ていると、日本や欧米のような送金手段が確立されている先進国の人々が投機取引に先走り、混乱を助長している印象が否めない。仮想通貨の取引を承認するマイナー(採掘者)間のいざこざによって起きた8月のビットコイン分裂騒動のようなドタバタ劇がこの先も繰り返されれば、使う側の利便性を損ないかねない」

人気のない「通貨」は消える

――投資家の間では値動きの大きさが魅力との声を聞きます。

「価値が大きく値下がりするリスクをわかっているのなら取引は個人の自由だ。最近は為替も金利も狭い値幅でしか動いていないため、ボラティリティーの高さが収益機会を増すとして、投資家の興味を引いているのは間違いない。それでも市場規模は世界全体の金融・資本取引に比べると極めて小さく、何かトラブルが生じたとしても、世界の金融システムに大きな影響を与える公算は小さい」

「ただ市場がこのまま拡大を続けると注意が必要だ。仮想通貨には発行上限がある。そんな中で仮想通貨の需要が広がればおのずと通貨の種類は増えていくと考えられるが、すべてが生き残れる保証などない。人気のない通貨はマイニング(採掘)されなくなり、毎年いくつもの通貨が消えるだろう」

「1987年の『ブラックマンデー』、97年の『アジア通貨危機』、2007年のサブプライムローン問題と、7のつく年は金融・資本市場ではろくなことがなかった。リーマン・ショックを克服しきれていない17年は現時点で新たな危機は発生していないが、仮想通貨への過剰投資に歯止めがかからないと先に述べたリスクが顕在化し、27年には金融恐慌の引き金になりはしないかと警戒している」

既存の送金システム、考え直すきっかけ

――仮想通貨やブロックチェーンにはどう向き合うべきなのでしょうか。

「国内大手行で海外送金の手数料が1回あたり4000円もかかるのは高すぎる。通貨として機能を満たさない仮想通貨が先進国において取って代われるとは想定できないが、既存の送金システムを考え直すきっかけを与えてくれた点で評価したい」

「ブロックチェーンの技術的なメリットは大きい。活用法も仮想通貨の枠内にとどまらない。半面、チェーンが仮想通貨の広がりについていけなくなったり、採掘までのプロセスの複雑化でマイナーの人件費が高騰したりする事態はそう遠くない時期に訪れるだろう。今後は仮想通貨の普及とブロックチェーンの活用方法は完全に分けて議論すべきではないか」

【記者の目】

リスクは通貨乱立、整理・淘汰が波乱招く恐れ

仮想通貨の市場規模は法定通貨の足元にも及ばない。情報サイトのコインマーケットキャップによると仮想通貨全体の時価総額は9月20日時点で1350億ドル(約15兆円)。相場上昇に伴う評価額の拡大で膨らんではきたが、法定通貨のマネーサプライ(資金供給量)のうち、現金と流動性預金の「預金通貨」で構成する「M1」を日米(17年7月時点)とユーロ圏(同6月時点)で合計した約19兆ドルに対する比率は0.7%程度と微々たるものだ。M1のほかにも定期性預金や譲渡性預金、国債や投資信託など貨幣に近い金融資産がある。

そんな狭い市場なのに仮想通貨が乱立している。決定版はまだ登場していない。現在主役のビットコインはマイニング時の電力消費量が多いなどの欠点を抱え、イーサリアムやリップルといったビットコイン以外の仮想通貨「オルトコイン」との競争で必ずしも有利とはいえない状況だ。ここにきてマイニングに参入したIT(情報技術)大手のGMOインターネットやネット関連大手DMM.com(東京・港)など日本勢が、電力消費が少なく決済用途で使いやすい有力通貨を作り出せるかも知れないが未知数だ。

渡辺氏が警鐘を鳴らすように、ビットコインとオルトコインが整理・淘汰を繰り返す過程で、投機取引を手掛けていたヘッジファンドなど大口投資家の損失も膨らみかねない。それによってもたらされる世界の金融・資本市場の混乱シナリオにはかなり現実味がある。

(注)チューリップバブル 17世紀のオランダで新種の珍しい花に熱狂した人々が、球根の値段を激しくつり上げていった出来事を指す。球根1個の価格が市民の平均年収の数年分まで上昇し、その後急落した。

〔日経QUICKニュース(NQN) 尾崎也弥〕

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