リーマン10年 現地で見た危機の前触れは金融の膨張マーケットエコノミストの極意(8)

写真はイメージ=123RF
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世界の金融・資本市場を危機に陥らせた「リーマン・ショック」からこの秋で10年がたつ。市場が得た教訓は多い。2008年当時、ニューヨークの最前線で対応にあたった三井住友銀行の森谷亨チーフ・マーケット・エコノミストは「投機資金を仲介する金融部門の収益が突如増えたときは(周辺環境が良好に見えても)注意してほしい」とリスク管理における初動の大切さを説く(以下談)。

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無力感から得た当たり前の教訓

森谷氏は「投機資金を仲介する金融部門の収益が突如増えたときは注意してほしい」と語る

リーマン・ショックをもたらした米国の低所得者(サブプライム)向け住宅ローンについて、最初に違和感を覚えたのは07年の初めだった。サブプライムローンを担保にした「モーゲージ債」(不動産担保証券)と米国債のスプレッド(利回り格差)が急拡大したからだ。そのころ米住宅市場の雲行きが怪しいとのうわさは既に流れていて、モーゲージ債と米国債のスプレッド急拡大はその影響だろうと考えていたが、詳細はまったくわからなかった。

当時見積もられていたサブプライムローンの市場規模は小さく、ローンの証券化商品が世界を揺るがす事態にいたるとは到底思えなかった。米連邦準備理事会(FRB)や米政府も08年前半の時点でも事の重大さに気付いていなかったはずで、ましてや他の国では「たいした問題でない」との楽観がまん延していた。08年3月のベアー・スターンズの経営破綻でさえ「冒険好きな一金融機関がやんちゃをしすぎた結果で、特殊な例。他には波及しない」との冷静な受け止めが多かった。だが、危機は起きた。

予想外の市場の混乱に際してエコノミストやストラテジストは無力だ。リーマン・ショックの直後、現状を何とか乗り切ろうと、ドルの資金繰りをどうするかの会議ばかりしていた。そんな無力感から得た教訓は、もっと早く、もっと的確に危機のサインを把握しなければならないという当たり前のことだ。

金融セクターの収益過剰は要注意

1990年代以降の金融資産はオプションやスワップなどのデリバティブ(派生商品)を通じて複雑につながっている。それが危機の芽の発見を遅らせ、混乱を大きくさせるのだが、ふだんから注意深く眺めていれば必ず見つけられる。

ある商品をどの金融機関がどんな形で組成し、どんな投資家が購入しているのか。経済指標や中央銀行の政策をもとにマクロ経済の予想をする通常のエコノミストのアプローチだけではダメだ。リーマン・ショックの前夜、サブプライムローンの証券化商品が大量生産され、リスクヘッジ(回避)の取引が保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に集中していたことなど、マクロ分析ではまったくわからない。

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