ルール順守が為替の極意 英国仕込みの女性トレーダーすご腕為替ディーラーの至言

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欧州の金融センターである英国のロンドンは名ディーラーを輩出したが、必ずしも天賦の才に恵まれた人ばかりではない。自ら決めた取引ルールをかたくなに守り、コツコツと実績を積みあげていったトレーダーも多い。「すご腕為替ディーラーの至言」、今回はロンドンを拠点に活躍する外国為替アナリストの松崎美子氏。松崎氏は1980年代の後半に英国に渡り、大手銀バークレイズ銀行の敏腕セールス・トレーダーとして存在感を示した。

流れが来たらどんどん乗る

為替アナリストの松崎美子氏は「自らの戦略と取引ルールをきちんと作る。損失確定の水準はころころ変えてはいけない」と語る

ストラテジー(戦略)は1年ごとにたてています。クリスマスの後から10日ほどかけて翌年のストラテジーを考え、1~2月に持ち高を仕込むのが通常のスケジュールです。戦略は5月には見直し、11月ごろにはすべて手じまいます。

通貨の取引ペア(組み合わせ)を決めるときには経済情勢や金融環境、財政状況などのファンダメンタルズ(基礎的条件)を重視します。ファンダメンタルズの良しあしによって買いと売りの通貨をそれぞれ選び、組み合わせるのです。機動的なディーリングには自由に取引できる厚い市場が必要なので、ドルやユーロ、円、英ポンドなど先進国の通貨同士のペアがどうしても多くなります。

持ち高は、分が悪いと感じたらさっさとあきらめて解消します。含み損を平準化する目的で膨らませる「ナンピン」取引は絶対にしません。逆に、流れが来たと思ったら臆せずにどんどん積み増し、利益の最大化を狙います。その判断は、週足のローソク足チャートの形をみてすることにしています。

底値と天井は市場が決める

ディーリングで難しいのが利益確定のタイミングでしょう。私の場合は、持ち高限度額の5割程度までは動かず、波に乗れていたら7~9割程度まで積みあげ、可能な限り許容最大の規模にまで近づけます。そこまできてようやく利益をどう固めていくか検討するわけです。

慣れていない人は、相場の底値や天井にできるだけ引き付けて収益を得たいと欲が出ます。でも、それではせっかくの利益確定の好機を逃しかねません。底値と天井はあくまでもマーケット(市場)が決めます。相場格言で「頭と尻尾はマーケットにくれてやれ」という通り、どこがピークでどこがボトムかにはこだわらず、流れに乗ることだけに集中しましょう。

ロスカットの水準はころころ変えるな

始めたばかりの時期は「とりあえず何かやろう」となりがちですが、トレード中毒では勝てません。自らのストラテジーと取引ルールをきちんと作る。損失確定(ロスカット)の水準はころころ変えてはいけない。勝負の世界で長く生き残ろうとするのなら、ルールにしたがってロスカットしなかったための「けがの功名」で利益を得られたとしてもダメだと肝に銘じましょう。

ディーリングで大事なのは「負けないこと」です。銀行にいたころのロンドンは職人の世界でした。東京市場における堀内昭利さん(当時はドイツBHF銀行東京支店、現AIAビジネスコンサルティング社長)のように、値段を眺めているだけで相場の方向性を見極めてしまう天才肌のトレーダーがごろごろいました。現在もいるであろうそんな天才たちと競っても勝率は上がりません。まずはルールを守り、大負けしないように徹底してください。

日本の投資家はもっと英語圏の生の情報に触れるべきです。日本語メディアだけでは欧米情勢の実態がうまくつかめないと思います。

日本では低金利局面が長期化し、円を売って外貨を買い持ちにすると金利差に応じた利息収入にあたる「スワップポイント」を得られます。ただ為替相場の変動率はとても大きいので、金利差に安心しているといずれ痛い目にあうでしょう。相場と対峙しディーリングによる売買益を狙う基本に立ち返って努力すべきです。

松崎美子
1986年、スイス銀行(現UBS)東京支店にディーラーアシスタントとして入行。88年に結婚のため渡英し、89年から英バークレイズ銀本店で日本人初のオプション・セールスとなった。97年に移籍した米投資銀メリルリンチ(現バンクオブアメリカ・メリルリンチ)ロンドン支店でもオプション・セールスを務め、2000年に退職。03年からは個人投資家として外為証拠金(FX)にかかわり、07年以降はブログやセミナーを通じて情報発信を始めた。「松崎美子のロンドンFX」(自由国民社)などの著書がある。

【記者の目】

駐英経験を持つベテランディーラーには松崎氏をよく知る人が多い。ある国内銀行の在英ストラテジストは「国内銀や生命保険会社のトレーダーには松崎さんに足を向けて寝られない人がいる」と明かす。かつて市場を席巻した「ザ・セイホ」の巨額マネーを次々と鮮やかにさばく手腕には定評があった。

松崎氏が情報配信を始めたころのFX市場はまだ草創期。松崎氏からみればディーリングの基本ができていない人ばかりだった。そんな状況を見て、いてもたってもいられなかったようだ。「あれから十何年たつけど投資家の出入りが激しいので、結局、ほとんどの投資家はまだ基本がなっていないわね」。啓発活動に引き続き意欲満々だ。

〔日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 今晶〕

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