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「ビットコイン、永遠でない」 “省電力”通貨登場も 仮想通貨の実相(4)

2017/9/30

ビットコインは分裂の火種を抱えるなどまだまだ発展途上だ=ロイター

 ビットコインは永遠でない――。仮想通貨の象徴かつ決定版のように語られるビットコインだが、規格問題で分裂の火種を抱えるなどまだまだ発展途上だ。国際商品や外国為替の市場で何度も「はやりすたり」を経験した後、仮想通貨事業に参入したマネーパートナーズグループの奥山泰全社長は次世代の決済手段として仮想通貨に期待を寄せる一方、ビットコインありきの現状には警鐘を鳴らす。日本仮想通貨事業者協会の会長も務める奥山氏に聞いた。

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■仮想通貨の中核技術は評価

奥山泰全 慶応大学商学部卒。個人投資家から証券会社経営に加わり、2006年8月にマネーパートナーズグループ社長に就任した。日本仮想通貨事業者協会にも設立時から関わり、協会会長を務める。

 ――仮想通貨の普及により社会や一般の暮らしに変化が訪れると言われています。

 「インターネットの発展に伴い、個人や企業が自己所有のサーバーにデータを保管しなければならない時代から、誰もが利用可能なネットワークの『クラウド』に個人情報や金銭的な財産価値を暗号化したデータで分散保管する時代が訪れようとしている。仮想通貨の取引を分散し、第三者の承認をへて強固なものにする中核技術の『ブロックチェーン』は金融とIT(情報技術)を融合したフィンテックの分野で応用される潜在力があり、評価している」

 ――ビットコインのドル建て価格が5000ドルを一時超えた後、足元で2900ドル台に急落するなど値動きが荒くなっています。

 「将来性に対する期待先行で買われたが、投機売買が中心で実体経済で使われる『実需』に乏しいため、いったん売りが膨らむと下げが加速しやすくなっている。仮想通貨と称するよりも『クリプトコモディティー(暗号商品)』との表現が適切かもしれない」

 「8月のビットコイン分裂はいってみれば普通株1に対して種類株1を発行するようなもので、本来は分割前後の価値総額は変わらないはずだった。ところが『保有しておいた方がいい』『ともかく買っておけ』との心理が広がっているので、分裂後のビットコインも新たに生まれたビットコインキャッシュもすぐに価格は上がった」

■値上がりし続けるのは幻想

 ――仮想通貨業界にはビットコインを「デジタルのゴールド(金)」と呼ぶ人もいます。

 「ビットコインが値上がりし続けるとの『幻想』を買い手に与えかねず、危うい表現だ。金は宝飾品としても使えるが、仮想通貨には形がない。金と同列に扱うのは難しい」

 「仮想通貨はネットワーク上で価値が認められなくなると急落するリスクを常に抱える。とりわけ(自己資金の何倍かに運用額を増やす仕組みの)レバレッジ取引では価格急落時に投資家が損失をこうむるだけでなく、不足した証拠金を取引所が回収できなくなる可能性も出てくる。リスクは丁寧に説明しなければならない」

 「値上がり目的の投機資金が仮想通貨市場の厚みと取引自由度(流動性)の向上につながることは否定しない。とはいえこのところの価格上昇には過熱感があった」

 ――ビットコインは仮想通貨の主役であり続けるのでしょうか。

 「ビットコインが永遠に財産的価値を保ち、値上がりを続けるとは思わない。デジタルネットワークは日進月歩で変わる。その中で存在感と利用価値を保つのは大変だ。例えばエネルギーの主な原料が石炭から石油に代わったように、デジタルのネットワークを支える『エネルギー』といえる仮想通貨にも必ず、新陳代謝が起こるはずだ」

■電力消費がきわめて多い

 「仮想通貨のデータを承認するマイニング(採掘)作業には膨大な電力が必要で、特にビットコインのマイニングは電力消費がきわめて多いとされる。今後は電力をあまり使わないことを売りにする仮想通貨も出てくるのではないか。ビットコインは1通貨当たりの大幅な値上がりによって使い勝手が悪くなってきた面もある」

 ――ビットコイン事業の将来性はどう見ていますか。

 「マネーパートナーズは外国為替証拠金(FX)事業で月間4~5億円程度の売り上げを計上している。仮想通貨の流動性をFXと同じくらいに高めたとしても、現時点では売り上げが1億円に届くのは厳しいだろう。というのも仮想通貨がドルやユーロなどの主要な法定通貨に代わるだけの商品になる展望はまだ描けない。これから正規の仮想通貨の取り扱い会社が増え、流動性が高まると、同時に競争も激しくなって収益性は落ちるはずだ」

 「一方、現在銀行が主導している決済システムの代替インフラの中心に仮想通貨を据える事業には期待できる。複数通貨に対応したプリペイドカード『マネパカード』で仮想通貨を利用してもらい、決済の最終的な部分を担うビジネスモデルを確立できれば、手数料などで安定収入が見込めそうだ。仮想通貨を取引できる機能提供はあくまで通過点で、仮想通貨を利用する出口を作って企業価値を高めることを戦略的に目指している」

 ――業界全体として必要なことは何だと考えますか。

 「取引所の登録手続きがまだ終わっていないうえ、(レバレッジなどにかかわる)自主規制もままならない。市場は夜明け前だ。仮想通貨事業者協会としては市場の健全な発展を目指して業界全体が足並みをそろえられるような『ミニマムスタンダード』(最低限の基準)の制定がまずは求められている。他の事業者団体や有識者との連携や情報交換も欠かせない。次世代のためには市場の流動性向上や、法廷通貨と円滑に交換できる仕組みが必要で、その環境を作るのがわれわれの責務だ」

【記者の目】

■急がれる取引ルール整備

 奥山氏が警鐘を鳴らすように足元のビットコインブームは投機マネーの「仮需」が主導する。しかもかなりの部分を中国勢が占める。コインのマイニングにおける中国企業のシェアも5割を超える偏った市場だ。中国の環境変化にはもろい。

 実際に中国の大手取引所「BTCチャイナ」が9月末で取引をすべて止めると発表し、換金売りが膨らむとビットコインの相場は急落した。市場関係者は「日米欧などの他の国の需要も根強いため心配は無用」と口をそろえるが、中国当局の規制強化が見込まれる中、楽観はしていられない。

 仮想通貨もFXと同様にレバレッジ運用ができる。FXでは投資家保護の観点からレバレッジ比率は25倍までと法律で決まっていいる。一方、仮想通貨を規制する法律は今のところない。足元では、リミックスポイント傘下のビットポイントジャパンなどがFXと同じ25倍までのレバレッジを認める。

 高いレバレッジは投機資金を吸い寄せ、市場に流動性を供給するが、法定通貨と同じ程度の厚みを持てるのはだいぶ先の話だろう。ビットポイントジャパンのように複数の取引所と連携して値付け率を高める「リクイディティ・プール」を導入するところもあるものの、十分機能しているとはまだいえない。

 仮想通貨のボラティリティー(変動率)はFXの10倍~数十倍に達するケースが珍しくなく、投資家は大きく利益を得るチャンスがある半面で、差し入れた証拠金だけでまかないきれない損失を抱え込むリスクも相当に高い。市場関係者からは「レバレッジは2倍でも高いくらいだ」との指摘も出ている。

 高いレバレッジを求める投資家がいることは事実で、取引所がそれに応えれば流動性は高まり、取引量が増えて収益につなげられる。だが度が過ぎれば市場が混乱しやすくなる。決済手段などの社会インフラとしてビットコインなどが成長するには、相場が一定のボラティリティーの範囲に収まる安定性が重要だ。投機筋がかき回してばかりでは将来性の芽を摘んでしまいかねない。

 仮想通貨に設定されている発行上限はドルや円などの法定通貨に比べるとははるかに少ない。需給は簡単には緩まない構造になっている。前のめり気味で市場拡大が続くなか、投資家が冷静な判断をできるよう適切な情報提供や、取引ルールの整備を求める声は投資家と業界関係者の双方から強まるばかりだ。

〔日経QUICKニュース(NQN) 尾崎也弥〕

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 「仮想通貨の実相」はビットコインやイーサリアムの取引現場での最新トピックや関係者の発言を紹介します。掲載は不定期です。

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