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投資は進むも退くも潔く プロが説く損切りの心得 マーケットエコノミストの極意(6)

2018/5/17

写真はイメージ=PIXTA

 投資は奥が深い。アベノミクスによる株高や確定拠出年金の導入拡大を背景に、個人にも運用リスクをとる動きが広がっている。一方で2018年1月の仮想通貨NEM(ネム)の流出事件や、2月の米株価急落をもたらした「VIX(変動性指数)」ショックなど、どこに落とし穴が潜んでいるかわからない。ニッセイ基礎研究所で長らくマーケットに向き合ってきた矢嶋康次チーフエコノミストは「進むにせよ退くにせよ潔さが大事」と説く。

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■絶対にやってはいけない「塩漬け」

 投資のストーリーを作る時に大切なのは「5%損をしたら持ち高を解消する」といった具体的な退出のルールを決めることだ。「これだ」と感じたストーリーにはどうしても感情移入をしてしまうが、思い入れが強いほど市場の微妙な変化に気づけなくなる。うまく行かなくなったあげく「相場が間違っている」とぼやくようになれば、おしまいだ。

 持ち高に損失を抱えたまま、ずるずると時間がすぎ、身動きがとれなくなる「塩漬け」は絶対にやってはいけない。いつか相場が反転するかもしれないと待っているうちに、資金を動かせないだけでなく、さらに損失を抱えるリスクも高まる。長く投資をしていく考えなら、あきらめが肝心と早めに割り切ることだ。

ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは「肝心なのは予想を外した後に、潔く損切りできるかだ」と話す

 もう一つ重要なことがある。市場参加者の関心がいまどこにあるのかをきちんと見定めるようにしてほしい。

 自分の失敗から例をひいてみよう。昨年末、2018年は米国が粛々と利上げを進めるとの前提で、日米の金利差が拡大し円安・ドル高になると予想したが円はむしろ上昇した。

 金利差が拡大するところまでは当たっていた。だが市場参加者の関心が奔放なトランプ米大統領の発言や米国の保護主義政策に移り、金利差はいったんかやの外に置かれた。完璧なストーリーを組み立てたと自負していたのに、それでも外れてしまうのが相場。肝心なのは予想を外した後に、潔く損切り(損失覚悟の持ち高解消)できるかだ。

■潮目の変化をうまくとらえるには

 損切りをしながら経験を積むうちに、学ぶことは多い。有名な相場格言に「頭と尻尾はくれてやれ」というものがある。相場が上昇局面にある時に最高値で売るのも、下落局面のなかで最安値で買うのも至難の業だと教えてくれる。

 もちろん、サイクルが反転した直後で売り買いをするに越したことはない。どうすれば早くトレンドの変化に気づけるのか。日々試行錯誤して苦しんでいる。キーワードは「変化」だ。技術革新から社会の構造が変わる時などが格好の投資チャンスだろう。ヒントはあらゆる分野に転がっている。

 例えば電気自動車(EV)は投資対象になるのか。これには2つの見方ができる。一つは10年たっても、EVのシェアは大きくならないとの慎重論。EV用の電池などには供給制限があり、あくまでも一過性のブームにすぎないというわけだ。半面、世界経済をけん引する中国がEVシフトを進めている。国内メーカーもEV市場への参入を本格化させるとの読みが可能だろう。

 確かにEVには今の段階では技術的な課題が多い。ただ人々の関心や需要が強いのなら、技術のブレークスルー(革新)が起きて市場は広がると受け取れる。目の前で起こっている事象だけでなく、将来起こりうる変化まで想像する力が投資では大事だ。

■欠かせない定点観測の姿勢

 将来の変化はすぐには予想できない。まずは色々な情報を仕入れ、多くの人と話して現在のトレンドが何なのか、さらにはその変化に気付くところから始めたい。

 役立つのが「定点観測」。例えば、特定の人たちと定期的に話してみる。以前の会話内容と比べ、テーマなどが変わっていれば記憶しておく。複数の人が同じ方向で話していれば、トレンドが変わったと判断できるだろう。

 定点観察は人との会話以外でも役立つ。地方出張で周囲の写真を携帯カメラで撮影するようにしている。手軽に景況感や周囲の環境変化を測るには最適の方法だ。

 最近、新幹線の車内食がややぜいたくになっていると思う。08年の「リーマン・ショック」直後には300円のサンドイッチとお茶程度だったのに、最近はやや値が張るお弁当に加え、缶ビールや酎ハイを旅のお供にする人が増えたようだ。

 地方の観光名所を定期的に撮影すると外国人客の増加などを実感できる。一昔前、土産物の定番として人気を博した三角形の「ペナント」を大量に買い求める光景に出くわしたりすると、インバウンド消費の思わぬ影響を改めて意識させられる。

 また、ある国の債券や企業の株を買えばその国の事情を学ぼうとするし、別の企業で働いたらどうかなどと考えられる。定点観測を軸にした社会勉強は侮れない。

矢嶋康次
 1992年東工大卒業後、日本生命保険を経て95年にニッセイ基礎研究所へ入所しエコノミストの業務を始める。早大や上智大で非常勤講師を兼務し、17年から現職。マーケットのほかに少子高齢化問題や、金融政策など幅広い分野を専門にする。日経CNBCなどのメディア出演の機会も多い。

〔日経QUICKニュース(NQN) 荒木望〕

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