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活況のビル転売 個人投資家、1フロアを区分所有 不動産の現場から

2017/7/15

東京・丸の内のオフィス街=PIXTA

 日銀の異次元金融緩和政策のもとで低金利が続くなか、不動産市場に資金流入が続いている。マネーが流れる先は賃貸アパートだけではない。都心を舞台に大手不動産が活発に売買するオフィスビルが、個人投資家の投資対象となっている。

 JR恵比寿駅で下車して駒沢通りを5分ほど歩くと、明治通りと交差する渋谷橋交差点に着く。この角地に建つビルの旧名は「ポーラ恵比寿ビル」で、ポーラ・オルビスホールディングス(4927)傘下の不動産会社が所有していた。現在の名称は「VORT恵比寿maxim」で、並みいる競合を抑えて落札したのは不動産関連事業を手がけるボルテックス(東京・千代田)だ。昨年11月のポーラの開示資料によると売却額は約95億円だった。

ボルテックスが落札した渋谷橋交差点の角地にある VORT恵比寿maxim(旧ポーラ恵比寿ビル)

■「獲物に食らいつくように」

 舞台はオフィスビルの中心地、千代田などの都心5区に移る。「ある大手不動産会社が都内のビルを次々と取得している」――。不動産関係者の間で頻繁に名前が挙がるようになったのが、ヒューリック(3003)だ。東京証券取引所に上場する不動産業の時価総額では住友不動産(8830)に次ぐ4位と存在感を示している。

 ヒューリックによる都心のオフィスビル取得を「まるで獲物に食らいつくように買いに動く」と、ある不動産会社の役員は評する。同社は6月から大阪での物件取得に動き始めているが、主戦場は都心5区を中心とした地域だ。「取得から1年以内という短期間で転売し、利益の柱の一つになっている」(外国証券の不動産アナリスト)。

 次々とビルを所得するヒューリックをはじめ、サンフロンティア不動産(8934)やファンドの後をたどると「ポーラ恵比寿ビル」も落札した「ボルテックス」に行き着いた。同社は2017年3月期に販売用不動産581億円、長期保有を目的にした物件112億円、合計693億円を仕入れた。同期の売り上げ669億円を上回る規模だ。

■管理費差し引いた利回り2.5%

 これだけの量を取得してどうするのか。ボルテックスの宮沢文彦社長は投資家に対して、「ビル1棟をまるごと所有するのではなく、1フロアを区分所有するという手法を提案している」と説明する。フロアあたりの床面積が狭いペンシルビル1棟を数億円で所有するより、床面積の広いビルの1フロアを同等の金額で所有する方が資産価値の向上が期待できるという考え方だ。個人の富裕層が手を出しやすくなったという。

「上場に向けて体制づくりを進めている」と語るボルテックスの宮沢文彦社長

 同社は表面利率4~4.5%で仕入れたビルを「取得価格のおよそ3~20%をかけてバリューアップ工事等を施す」(宮沢社長)。仕入れたビルの1フロアの区分所有権を投資家に販売。「管理等を差し引いた利回りは2.5%程度になる」(宮沢社長)という。投資家であるオーナーに管理を委託されたボルテックスはテナント探しや賃料の折衝を担う。

 ビルやマンションを問わず重要な維持・管理業務も同社が担当する。オーナーが加盟する管理組合を作り、ボルテックスが理事長となる。同社が修繕積立金を拠出し、「30年の節目に訪れる大規模修繕にあたってはオーナーの追加出資はほとんどない」(宮沢社長)と説明する。同社によると、相続時の資産評価額を大幅に圧縮できるとして個人富裕層の相続やオーナー企業の事業継承で「区分所有オフィス」を購入するケースが4割、地方の内部留保の厚い企業で本業を下支えするための購入が6割程度だという。

■投資家には参考値を提示

 オフィスビルの資産価値は、不動産価格や賃料の動向に大きく左右される。不動産市況や不動産の証券化商品に詳しいみずほ証券の石沢卓志上級研究員は「低金利が続く中、小口資金に対応した不動産投資が一般化していく」と指摘する。そのうえで、「ビル供給の集中する丸の内、八重洲、大手町、新橋、虎ノ門といった地域間の賃料格差が開く可能性が高く、目利き力が必要だ」と強調する。

 投資するからには売却という出口が不可欠だ。ボルテックスは1フロアを売却できる参考値を提示したオーナー専用サイト(四半期ごとに更新)を設けている。「区分所有オフィス」の月間取引額は50億~60億円。「累積取引の顧客や新規の購買層を増やすことによって区分所有のマーケットを広げたい」(宮沢社長)という。

 証券会社出身の宮沢社長はオフィス市況について「相場は読まない。上がる、下がる双方のシミュレーションはしておく」と語る。過去に例を見ない超高層ビルの都心大量供給による市況悪化が杞憂(きゆう)に終わったとしても、「区分所有オフィス」の転売市場の流動性を向上させたうえ、30年後でも色あせない競争力の高いビルにする大規模修繕は必要になるだろう。

〔日経QUICKニュース(NQN)シニア・エディター 齋藤敏之〕

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