なぜ企業オフィスの大型新築ビルへの移転が目立つのか。三井不の奥植氏は「潮目の変化は溜池のビルだった」と指摘する。新日鉄興和不動産による「赤坂インターシティAIR」(東京・港)は17年8月の完成に向けてテナントの募集活動が始まったものの、17年になっても大口の借り手がなかなか決まらず、オフィス市況の先行き懸念を象徴する存在だった。ところが完成数カ月前になってNTTドコモ(9437)のグループ企業の入居が決まり、ほぼ満床に達した。

 三井住友トラスト基礎研究所の坂本雅昭投資調査第2部長は「ちょうど溜池のビルの完成前に長時間労働などが社会問題化していた。人材確保のために働きやすいオフィス環境作りを進めたいという企業のニーズとビルの完成時期が重なった」とみている。

TDKや日産化学などが本社移転する日本橋高島屋三井ビルディング

 同ビルに移転した企業のなかにセゾン情報システムズ(9640)がある。同社は池袋のサンシャイン60に構えていた本社と江戸川橋にあった拠点を集約した。移転するにあたって風通しの良い企業風土を目指したという。同社経営推進部の豊田あかねグループ長は「家賃総額は変わらないように借りる面積は少なくしたが、会議などに使える共用スペースは増えた」と説明する。最近完成するビルは1フロアの面積が広く柱がないため、入居する企業のアイデアを生かしたオフィス空間をつくりやすい。

2次空室を埋める館内増床

 一方、移転で空室になる既存ビルの「2次空室」に懸念はないのか。六本木の「東京ミッドタウン」(東京・港)ではヤフー(4689)が本社を「東京ガーデンテラス紀尾井町 紀尾井タワー」(東京・千代田)に移転した後、「ナイキジャパンや製薬会社など相当なスピードでテナントが決まっていった」(三井不)という。住友商事が移転した後の「晴海トリトンスクエア」(東京・中央)も2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会などの入居が決まったという。

 「六本木ヒルズ」(東京・港)に現在入居しているグーグルは18年夏に完成予定の「渋谷ストリーム」(東京・渋谷)に移転する。六本木ヒルズには空室が生まれるが、不動産市場では「移転後に外部募集されるのはグーグルの退去面積の半分以下」とみられている。空室が出ても、六本木ヒルズに入居している企業の館内増床があるためだ。

 都心5区では今後、21年こそ少ないものの18年から22年にかけてオフィスの大量供給が続く。ビルには新規供給がある一方、再開発などで取り壊されたりホテルなどに転用されオフィスではなくなる「滅失分」がある。新規供給から滅失分を除くと純粋な貸室の増加量が把握できる。三井住友トラスト基礎研究所の推計によると、05年以降、新規供給面積の約半分に相当する面積が失われた。今後の滅失面積を予測するのは難しいが、同様の傾向が続くとすれば、絶え間ない再開発が都心のオフィス市況を下支えする。

 とはいえ、ある大手不動産会社の社長は「実際には大量供給によるテナント獲得競争は厳しい。新しいテナントを誘致する際にオーナー側は強気な賃料で臨んでいないので賃料の伸びは緩やかだ」とあかす。さらに、「2003年問題」と呼ばれたような単年のオフィス大量供給はあったが、今回のように数年にわたる大量供給は経験したことがない。好業績が支えるオフィス市況は景気変動の影響をさらに受けやすくなっている。

〔日経QUICKニュース(NQN)シニア・エディター 齋藤敏之〕

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