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相場の荒波は「楽観論の増加」で予測 上野泰也氏 マーケットエコノミストの極意(2)

2018/2/14

写真はイメージ=123RF

 2018年の金融・資本市場は米長期金利の上昇をきっかけとした世界的な株価急落で波乱の展開となっている。投資家は定期的に訪れる相場の荒波にどう臨むべきか。市場予測の専門家に相場との向き合い方を聞く「マーケットエコノミストの極意」の第2回は、みずほ証券の上野泰也氏。上野氏は日本でマーケットエコノミストの肩書を定着させた第一人者で、基本の積み重ねの大切さを説く(以下談)。

■市場の背後にいる人の心理を読め

 市場を見る際は、実体経済や市場の背後に人間がいることを忘れてはならない。どれだけ新しい技術ができても、機械取引の存在感が増しても、楽観と悲観の間を(アナログな)人の心理が揺れ動き、相場を左右するという宿命は避けられない。例えば、景気循環が無くなるとの議論が出るようになったら、楽観の行き過ぎを警戒すべきだ。

 最近では、米株式市場で価格下落リスクの回避(ヘッジ)目的の取引を減らす投資家が増えているとの記事を目にしていた。通常は株の現物を買えば、リスクをヘッジするため先物を売ったり、(債券や金など教科書的に)逆の動きをする金融商品を買ったりする。だが米株価が一本調子に上昇するのを見て、ヘッジを外す投資家が出ているというのだ。これは市場の油断や慢心の表れで、危ういと思った。

「市場には色々なパターンがあり、それを体にたたき込んで初めて、金利の上昇と株価の下落が同時に起こるような出来事にもとっさに対応できる」

 年明け以降も続いた米株価の上昇局面では、00年のITバブルの時とよく似ていると感じていた。あまりに根拠なく、安易に相場が上がっていたからだ。(あらゆるモノがネットにつながる)IoTについて「電子部品の景気サイクルが今後はなくなる」と持ち上げる話を聞いたとき、警戒感を募らせた。週初の社内会議では「適温相場に波乱があるかもしれない。ニューヨーク・ダウ平均株価が一日に1000ドルも落ちる場面があるかもしれない」と言い続けていた。

 いずれにせよ、市場には色々なパターンがある。パターンを体にたたき込んで初めて、金利の上昇と株価の下落が同時に起こるような出来事にも、とっさに対応できる。マーケットエコノミストの仕事で一人前になるには10年は続けなければならないというのが私の考えだ。

■基本は「四股鉄砲すり足」

 市場予測をするうえでは、独自のノウハウよりも基本に忠実であることが相場分析において重要だ。相撲の世界に「四股鉄砲すり足」という基礎の稽古がある。新人力士は四股を踏んで足腰を鍛え、鉄砲(突っ張り)で胸を鍛え、すり足で土俵から足が浮かないようにする。マーケットエコノミストに置き換えると、基本動作となる情報収集をできるだけ人に任せず、コツコツとやることが重要になる。

 情報端末は大手各社をすべて確認し、朝の新聞各紙のチェックは20年以上欠かさない。一般紙だけでなく海外紙や専門誌にも目を通し、同僚と意見交換する。地道な情報収集こそが、この仕事をやる上で一番の力になる。

 次に、集めた情報の中から必要なものだけを抽出する。その際、記事をコピーしてファイルにまとめている。「ユーロ上昇」などと項目を立てて、関連の記事をまとめておく。アナログの極致だが確実な方法だ。こうした情報からシナリオを作り微調整を繰り返すのが、この仕事の基本中の基本だ。

■ディーリングルーム密着を目指す

 1994年にマーケットエコノミストと名乗った。米国にはディーリングルームに座り、マーケットのために情報を発信するエコノミストがいると聞き、まさに自分にぴったりの肩書だと思った。市場に軸足を置いたエコノミストになれた原点は、新人時代に為替ディーラーとして相場の予測を立てることで鍛えられた経験にある。

 若手ディーラーの当時は翌日の相場予想を書いていたが、まったく当たらなかった。上司から何度も突き返され、相場の奥深さを身をもって覚えていった。マーケットをまず肌感覚で覚え、マクロ経済指標の分析などは後から学んだとの自負が「マーケット」を冠したエコノミストを公式に称するきっかけとなった。

 あるとき上司に「自分のリポートに値段を付けてみろ」と問われ「10円や30円しか価値がないリポートなら書くんじゃない」と一喝された。エコノミストは情報を売る仕事だ。付加価値を付けられなければ、話にならない。さらにマーケットに触れるならば、相場は上がるのか下がるのかという明確な結論を求められることも忘れてはいけない。

 証券会社は顧客である投資家に運用のリスクを取ってもらい、手数料をいただく。エコノミストがお客さんの求める運用のヒントを示せなければ、何の役にも立たない。

■軸足がなければ予測は立てられない

 シナリオ作りの際は、軸足を動かしてはいけない。軸足は信念のようなものだ。軸足がなければ風任せの予想になるし、軸足をずらさなければ、筋の通った見方が提供できる。細かな微調整は必要だが、基本姿勢は変えていない。例えばここ何年かは、人口減少問題こそが財政問題や消費物価が上がらない問題の根幹にあると主張している。

 ただ、予測を100%当てることは不可能だ。予想が外れている時は、顧客に申し訳ないと落ち込むこともある。そのためと言っては何だが、常にプレッシャーに耐えられるよう心身を鍛えている。直近10年は欠かさず水泳をしている。週末に4キロはプールで泳ぎ、翌週に備える。体脂肪率は常に10%以下だ。

■常に生活者の感覚に照らしてみる

 マーケットを分析するうえでは、生活者の感覚を忘れてはいけないと肝に銘じている。部屋に閉じこもってデータだけ見ていてもだめだ。生活感覚に照らして道理に合わない話は、どんなに耳当たりが良くても疑ってみる必要がある。

 例えば日銀が異次元緩和を始めた時、物価安定目標の2%を掲げていれば、いずれ物価上昇率は2%を超えると説明していた。だが金融政策に関心を持つ人はさほど多くはない。いくら目標を説いたところで、広く理解されて浸透しなければ意味がない。個人は消費を増やさないだろうし、景気をけん引するとは思えない。

 経済とはやはり人あってのものだと思う。普通に生活している人の感覚から見て、違和感がある政策は成功しないはずだ。

上野泰也
 1985年上智大文卒、86年に会計検査院入庁。88年に富士銀行(現みずほ銀行)に入行し、為替ディーラーなどを務めた後に富士証券(現みずほ証券)に転じて94年からマーケットエコノミスト。以降、約24年の長きにわたって同じ肩書で活躍する重鎮中の重鎮だ。

〔日経QUICKニュース(NQN)荒木望〕

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