中国人客の大量買い インバウンド消費を読み解く
編集委員 小林明
円安などを背景に急速に増えてきた訪日外国人客。今年3月は152万人に達して過去最高水準をさらに更新している。日本各地の観光地に外国人客が押しかけており、大都市の百貨店や家電店などでは中国人観光客による"大量買い"も今では見慣れた風景になった。
こうした外国人客はどこから最も多く来ているのか?
また、何にどのくらいお金を使っているのだろうか?
今回はインバウンド消費の実態を様々な統計から浮き彫りにしてみよう。
訪日客急増、過去最高を更新
まず訪日外国人数の推移を追いかけてみよう。
訪日外国人は2008年の835万人までほぼ順調に増えていたが、「2つのショック」に見舞われる。08年のリーマン・ショックと11年の東日本大震災だ。この影響から訪日外国人客数は09年、11年にそれぞれ大きく落ち込んでしまったが、12年末に安倍政権が発足してからは状況が一変。「右肩上がり」のリズムを取り戻した。
増加基調に転じたのは、「アベノミクス」による円安の進行に加えて、ビザ発給条件の緩和、格安航空会社(LCC)の就航、和食・アニメなどの日本ブームの高まりなどが要因。これに伴い、訪日外国人の旅行消費額も急拡大。11年の8135億円を底に1兆849億円(12年)、1兆4167億円(13年)、2兆278億円(14年)と3年連続で増え、国内経済に力強い活力を与えている。
旅行消費を引っ張る中国人、全体の3割占める
こうした勢いを支えているのが中国人客だ。
直近の14年だと中国からの訪日客数は240万人9158人で、首位の台湾人客や2位の韓国人客に肉薄。前年比伸び率は83.3%で断トツに高い。これは日中外交の冷え込みの影響で13年に中国人客が前年比7.8%減とランキング上位国で唯一減少に転じたことへの反動とみられる。15年の2月と3月は韓国や台湾を抑えてトップに立っており、中国人客の勢いはさらに増しているようだ。
中国人客の特徴はなんといっても旺盛な消費意欲。14年の国籍・地域別の訪日外国人旅行消費額を見ると、中国人は5583億円で首位。前年からほぼ倍増し、全体の3割を占めるまでに膨らんだ。1人あたりの旅行消費額も23万1753円で全体平均の15万1174円を大きく上回っている。
中国人客はマナーの問題などマイナス面も取り沙汰されているが、日本経済への恩恵を考えれば「ありがたいお客様」(日本百貨店協会)になっているわけだ。
中国人客、旅行消費額の55%を「買い物」に
中国人客の大量買いの実態に迫ってみよう。
14年の旅行消費額の品目別構成を見ると、「買い物」の割合が飛び抜けて高いことがわかる。全体平均が35.2%なのに対し、中国人客は55%。調査対象の18の国・地域で最も高い。
ちなみに韓国人客の買い物の割合は26.5%、台湾人客の買い物の割合は37.1%、米国人客の買い物の割合は13.8%だった。
中国人客に関して言えば、訪日の最大の目的は「買い物」なのだ。昨年10月に免税対象範囲が拡大したことがこの傾向を大きく後押ししている。
では中国人客は何を買っているのだろうか?
観光庁によると、「かつて訪日客が高額所得者層に限られていたころには家電、貴金属など高額品に人気が集まっていたが、訪日客が中間所得層まで広がると、買い物の対象も菓子などの食品や雑貨類などに拡大してきた」という。
中間所得層に拡大、「食料・雑貨」を"爆買い"
たしかに訪日中国人客の買い物人気ランキングを見ると、トップは「菓子類」、2位は「化粧品・香水」、3位は「食料品・酒・たばこ」。「洋服・かばん・靴」や「電気製品」などはそれよりも順位が低い。
中国人には旅行から帰国した後、親戚や友人にお土産を配るという習慣があるため、「菓子類、化粧品、医薬品、日用雑貨などのまとめ買いが多い」(観光庁)と考えられている。
菓子類では抹茶味の「キットカット」(ネスレ日本)や「ポッキー」(江崎グリコ)などが人気だという。
一方、中国人客の大量買いのすごさを裏付けるのが1人あたりの品目別購入単価。
「カメラ・ビデオカメラ・時計」が8万8729円(全体平均6万5626円)、「電気製品」が5万5985円(同4万942円)、「洋服・かばん・靴」が5万5397円(同3万2343円)と高額品ほど膨らむ傾向があり、他国籍・地域の旅行客の購入単価を大きく上回っている。これがインバウンド消費を力強くけん引しているわけだ。
中国人客の買い物場所については、「空港の免税店」が最も多く、次いで「スーパー・ショッピングセンター」「百貨店」の順。「円安や免税制度拡充で有利だし、関税の関係から日本で買った方が格安な商品も多い。ブランド品など高額品は偽物がなく、品質も確かな日本で買った方がいいという意識が広く浸透している」(日本百貨店協会)ようだ。
7~9月来日がピーク、リピート客の定着が課題
中国人客は年間を通じていつが多いのだろうか?
14年通年で見ると、最も多いのは7月の28万1309人。次いで8月の25万3802人、9月の24万6105人と夏休みの時期に目立って増えている。春節前後の1、2月(それぞれ15万5605人、13万8236人)の冬休みや3、4月(それぞれ18万4064人、19万558人)の桜の花見シーズンよりも多かった。「中国人客は初来日の割合が56%で最も高い。これからはいかに日本ファンを増やし、リピート客として定着させるかが課題」(観光庁)という。
「観光立国」を目指す安倍政権は、東京五輪が開催される2020年までに訪日外国人客を2000万人に増やす目標を掲げている。2兆円にまで達したインバウンド消費は東京五輪が開催される20年までに4兆円に倍増すると予測されている。外国人客は今後も増え続け、我々の身の回りの環境を大きく変えることになりそうだ。
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