多様な働き方、企業の活力に 「プロボノ」課題も
仕事で身に付けた知識や技術を社会貢献活動に生かす「プロボノ」への関心が高まっている。「スキルを生かして社会の役に立ちたい」という若者たちの思いとマッチしているようだ。活動を積極的に支援する企業が増える半面、課題も見えてきた。
公認会計士の意味を問う
あらた監査法人の伊藤嘉昭パートナー
あらた監査法人に所属する公認会計士の五十嵐剛志さんは、現在入社5年目。教育の課題解決に向けて活動するNPO法人「ティーチ・フォー・ジャパン(以下、TFJ)」の最高財務責任者という肩書も持つ。
参加した講演会で、TFJ代表理事である松田悠介さんの教育への熱い思いに心を動かされた。週末や平日の夜、会計分野のお手伝いから始めたところ、TFJから「五十嵐さんの力が必要だ。今の会社をやめて、転職してほしい」という要請を受けた。
五十嵐さんは悩んだ末にTFJの財務責任者になるため、1年間の休職を申し出た。バリバリの現役社員が抜けることを反対されるのではと思っていた。ところが、所属する財務アドバイザリー部の伊藤嘉昭パートナーは「これから公認会計士がNPO団体と関わっていくことは必要」と激励。あらた監査法人の木村浩一郎代表執行役も「会社からの出向で」と背中を押した。NPOでの活動が社員としての評価と、給与につながるしくみで働けることになった。
公認会計士に求められる力
ティーチ・フォー・ジャパンの最高財務責任者をつとめる五十嵐剛志さん
あらた監査法人がNPOへの出向を決めたのは初の試みという。伊藤パートナーは「公認会計士に求められる能力は監査や財務報告だけではない。環境要因など社会の課題が複雑になり、カバーする領域は広がっている。社会の課題に向き合うNPOでの学びが、会計士としてのスキルを磨くのに役立つはず」と話す。
NPOにとっても会計は大切な分野だ。寄付や助成金が重要な資金源であるところが多い。どのように資金を集め、使っているか、説明責任を問われる。現場で監査法人が果たせる役割は大きく、経験は大きな力になると確信した。
実際、TFJがNPO法人でも大きな力になる「認定」を取ることができたのも、五十嵐さんが財務責任者としてアニュアルリポート(年次報告書)の作成などに尽力したことが大きかった面もある。伊藤さんはNPOについて「なんとなく知っていた程度」だったが、五十嵐さんにTFJの理念を説明され、活動内容に共感した。「NPOの会計に課題を感じて自ら動いたのを評価した。今後も五十嵐さんに続く希望があれば出向のしくみを続けたい」と語る。