「JAZZYカフェ」も今回で8回目。うれしい事にこのコラムをきっかけにジャズを聴き始めた方もおられるようです。最初は「ジャズってよくわからない」と思っていた方も、実際に耳にしてみると、なじみやすいメロディーにすっと気持ちが入っていけたり、自然に身体がリズムをとっていたりして、その良さがじわじわっと感じられてきたのではないでしょうか。さらにもう一歩進めてジャズを楽しむなら、“演奏の違い”を知ることもお勧めです。
■組み合わせで変わる演奏
同じ曲でも一緒に演奏するメンバーによって違ってきますし、同一アーティストでも参加するバンドによって、演奏スタイルが変わることもあります。それがジャズの面白さでもあり、醍醐味だともいわれています。
1950年代~70年代に世界で活躍した、米国の伝説のジャズピアニスト、ビル・エヴァンス。初回のコラムでもご紹介したように、美しい旋律の叙情的なピアノと、見た目のクールさと知的さ、繊細な雰囲気から、男女を問わず人気があります。代表作のアルバムの1つ「ワルツ・フォー・デビイ」(61年)を聴けば、きっとエレガントなピアノに魅了されてしまうはず。
ところが、そんな優しいピアノをイメージして色々と聴き進めると、彼の演奏にはまったく別の側面があることにも気付かされるのです。
そもそも彼の演奏が広く世間に知られるようになったのは、トランペッターのマイルス・デイビスのバンドに加入したのがきっかけでした。58年から1年半だけでしたが、新しいジャズを生み出そうとしていたマイルスの音楽に新風を吹き込み、多大な影響を与えた改革者ともいわれています。マイルスがジャズ史を変えたともいわれる名盤「カインド・オブ・ブルー」(59年)は、エヴァンスあってこその作品。コード進行にとらわれず、モダンな音色や響きを重視したアドリブ演奏を駆使した作品は、今でこそ当たり前のようになっていますが、当時は衝撃だったそうです。
■優しいだけじゃない 「尖った」エヴァンス
このアルバムでのエヴァンスは、魚のようにうねうねと自由に、そして時には熱く強く弾いています。収録されている美しいバラード曲「ブルー・イン・グリーン」は、作曲はマイルス名義になっていますが、エヴァンスの貢献が大きく、エヴァンス自身の4作目「ポートレイト・イン・ジャズ」(59年)ではマイルスとの共作とされています。こちらはピアノトリオで、マイルスの作品の時とはまた違う、静かなる熱い情熱が感じられます。ピアニストが同じでも、メンバーや編成が違うとどう変化するのか、聴き比べてみるのも面白いですよね。
「静かで繊細」な印象とは違うアルバムは、他にもあります。例えば、アップテンポで聴きやすい曲が多く収録されている「ハウ・マイ・ハート・シングス」(62年)。ピアノトリオが多いエヴァンスですが、フルート奏者が加わり、いつになくエヴァンスが野心的な演奏を繰り広げる「ホワッツ・ニュー」(69年)もお薦めです。