2014/11/15

布村に生徒を送り出すと、山本は2011年に再び中1を担当する。その年、山本は自らの授業スタイルを問い直すきっかけとなる、2つの事件に遭遇した。

夏休みになると、山本は英国に渡り、ケンブリッジ大学で教育研修を受けた。自分の授業を披露すると、高い評価を受けた。だが、最後にこう指摘される。

「君の授業は、生徒にレールを敷きすぎている」

その言葉が胸に刺さった。帰国後、大震災の津波に襲われた東北の海岸線を歩いた。砂浜に近い小学校は建物が流され、廃墟と化していた。山本はその場に立ち尽くした。力なく首を垂らした草木に、浜風が吹き抜ける。

「人間には、ゼロからスタートしなければならない時がある。教師がいなくても学び続ける子を育てなければならない」

生徒同士で学び、教師は進行役に徹する

そして、山本はこう決意する。「教えない」と。「英語は宇宙のようなもの。すべてを教師が教えることなんて、そもそも不可能だ」

山本は、教室を6グループに分け、生徒を教師役に立てて授業をさせてみた。すると、こんな感想文が出てきた。

「もっと、みんなを巻き込める授業にしたかった」「リーディングの流れを順序よく組み立てておけばよかった」「段取りをしっかりして、練習すべきだった」

それを見て、山本はうなった。自分が目指そうとしている授業を、すでに生徒たちが気付いている。手を抜いた授業は、すべて生徒に見透かされてしまう。

変化を恐れぬ学校

今年、山本はこれまで踏み出せなかった挑戦に乗り出した。英語劇の実績もあって、中学の英語教師として、その名は全国にとどろいている。だが、初めて高校生の担任に就任したのだ。2011年から教えてきた中学生と一緒に、この4月に高1に上がった。そして、2年後には初めて大学受験に挑むことになる。

その大学受験制度は、大きな変革期にさしかかっている。知識重視の問題から、より応用力に重点を置いた課題にシフトしていく。人物や活動の評価も取り入れる流れが強まっている。

受験の重要科目である英語は、「読む」「書く」の試験から、「聞く」「話す」を取り入れた4技能で評価する傾向になっている。それは、都立両国の生徒たちにとって、より実力を発揮しやすくなることを意味する。

「多くの学校が受験制度の変更を恐れているが、都立両国の生徒はどれだけ激変しても対応できるに違いない」

都立両国を担当してきたベネッセコーポレーション首都圏営業課学校担当責任者の中谷隆文は、そう評する。

教科の本質に迫り、「学び続ける生徒」を育成することを目指した結果だといえる。生徒たちが勝手に課題を見つけ出して、話し合いながら解決していく──。それは、英語ばかりか、都立両国の全教科に広がろうとしている。

=敬称略

(編集委員 金田信一郎)

「都立両国、復活の舞台裏(下)」はあす16日に掲載します。