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「富山湾の宝石」シロエビ 美味支える県民性 北陸味紀行(3)

2015/4/10

富山に春の訪れを告げるシロエビ漁が4月1日、解禁された。体長5~8センチ。体色は透明で、わずかにピンクを帯びている。まとまって取れるのは富山湾だけ。「富山湾の宝石」とも呼ばれるシロエビの神髄を存分に味わえるのは、やはり富山をおいて他にはない。

■創業明治44年の料亭で福団子

富山市の岩瀬浜。北前船の寄港地として栄え、その名残を今に伝える。シロエビ料理を堪能したい人にまずお薦めしたいのが、岩瀬に店を構える老舗の料亭「松月(しょうげつ)」だ。

北陸新幹線の富山駅からLRT(次世代型路面電車)「ポートラム」に乗り換え、終点の岩瀬浜駅で下車、運河を渡って徒歩7~8分の場所にある。北前船の厚い船板に彫り上げた看板が出迎えてくれる。

明治44年(1911年)の創業だから、今年で104年の堂々たる歴史を誇る。中に足を踏み入れると、明治大正期にタイムスリップしたような感すら覚える。

松月は磯料理が専門の料亭だ。格式の高さを感じる部屋で、シロエビの刺し身、空揚げ、そして福団子をいただく。

老舗料亭「松月」の重厚な店構えは歴史を感じさせる(富山市)

刺し身はたくさんのシロエビがギュッと小鉢に盛られている。口に運ぶととろけるような食感で甘みが口いっぱいに広がる。「シロエビは甘すぎるという人もいるので、ショウガと合わせるとちょうどいい」と女将の黒田笑子さんの勧めるままにそうする。確かに甘みがほどよく抑えられ、おいしさが引き立つ。

車を運転しないならば、シロエビの刺し身をさかなに日本酒を一献傾け、往時の岩瀬のにぎわいに思いをはせるのも悪くない。銘柄はもちろん岩瀬の蔵元、桝田酒造店(富山市)の「満寿泉(ますいずみ)」だ。

松月でぜひ味わってほしいのが、店の名物であるシロエビの福団子だ。約200匹のシロエビを固め、秘伝の味付けをして竹ぐしに刺して炭火で焼く。口に含むと香ばしさが口一杯に広がり、シャキシャキした独特の食感。刺し身とは違った味が楽しめる。

「福が一杯入っているようにとお客さんが名付けてくれた。たくさんの福を取ってもらいたい」と笑子さんは命名の由来を語る。笑子さんにどう作るのかを尋ねたが「企業秘密」と笑顔で軽くいなされてしまった。

コースメニューは基本的にはお任せで、シロエビをはじめ季節の地魚で構成される。価格は5000円から1000円刻みで1万5000円まで。福団子が付くのは昼は6000円、夜は7000円からのコースだ。

■かつてはマイナー食材

シロエビ漁は明治期にまでさかのぼると言われる。ただ食材としての歴史は意外に新しい。とやま市漁業協同組合長の網谷繁彦さんによると「かつては煮干しやカップラーメンの具、内陸部の冬場の保存食ぐらいにしか使われなかったマイナーな食材」だったという。

その後、冷凍したシロエビから手作業で殻を取り外し、中身を出して刺し身にできるようになってから利用価値が高まった。網谷さんら漁協関係者の努力もあり、この20~30年ほどで用途が広がり、しかも高級食材として取り扱われるようになった。キロ当たりの価格も以前の5~6倍に跳ね上がった。シロエビ漁に携わる漁師は岩瀬と新湊(射水市)を中心に約100人いる。

■「富山湾鮨」キャンペーンに60店

シロエビの軍艦巻き(中央)、昆布巻き(右)、握り(左)の3点セットを持つ「寿司正」店主の山下さん

「天然のいけす」と言われる富山湾。すしネタとなる新鮮な魚介類が多く水揚げされ、市内にはすし店が多い。この時期にはシロエビをネタにしたすしが各店でお目見えする。市内で最も活気がある商店街の1つ、千石町商店街にあるすし店「寿司正」を訪ねた。

店主の山下信夫さんに握ってもらったのは、シロエビの軍艦巻き、昆布巻き、握りの3点セットだ。口に入れると口一杯に甘みが広がる。

この道55年の山下さんは「シロエビはまとめて酢飯に載せるので、1貫にすると甘エビより甘い」と語る。シロエビの昆布巻きは昆布の消費量が全国トップクラスの富山ならではの巻物だ。

シロエビと言えば白さが際立つ軍艦巻きが一般的。山下さんは「握りにすると酢飯の色と同化してしまうが」と苦笑するが、氷見や新湊のような漁師町では提供するすし店も増えているため、メニューに加えている。

山下さんは県鮨商生活衛生同業組合の理事長として「富山湾鮨(すし)」のキャンペーンも仕掛ける。賛同した店では原則、富山湾で取れた魚をネタに使った10貫を2000~3500円で提供する。山下さんが県に持ち込み、県が予算化、現在、県内の非組合店を含む約60店が参加している。寿司正では2500円で提供する。

■西洋料理店でもメニューに

「レストラン小西」ではフランス料理の食材にシロエビが使われる。手前がテリーヌ。オーナーシェフの小西さんが持つのがムース

シロエビというと和食ばかりに使うようだが、さにあらず。西洋料理店でもシロエビを使った様々なメニューが考案されている。富山市内で69年の開店当時からシロエビを使ったメニューを提供しているのがフランス料理店「レストラン小西」だ。オーナーシェフの小西謙造さんは全日本司厨士協会北陸地方本部の会長も務める。北陸コック界の重鎮でもある。

「シロエビには甘エビとは違う独特の甘みがある。優れた食材を使うのは料理人として当然。甘エビはおいしいがありふれた食材だ。シロエビはここでしかまとまって取れず、季節の変化を感じさせ、心が弾む食材だ」。シロエビ料理の提供を続けてきた哲学をこう語る。

提供するシロエビ料理は2品。ホワイトアスパラやウミマスの薫製と取り合わせたシロエビのテリーヌと、サクラダイを載せ赤結びのリゾットを組み合わせたシロエビのムースだ。いずれも赤や白、緑のコントラストが鮮やかで、春の訪れを感じさせる。テリーヌは白ワインによく合う。前者は冷たい、後者は温かい料理で一緒に出すことはない。

コースは1万円、1万2000円、1万5000円、それ以上、から選ぶ。ワインを合わせた平均の単価は1万5000~2万円程度。この値段で富山の春の恵みが凝縮されたフランス料理のフルコースが堪能できる。

■手で1匹ずつ殻むき

シロエビの殻むきは手作業で行われる(岩瀬の加工会社、水文)

今でもシロエビはパートの主婦などが1匹ずつ手で殻をむいている。作業の効率化を目指して機械の導入を試みた時期もあったが、普及しなかった。岩瀬の加工会社、水文(富山市)社長の水上剛さんは「機械処理するとうまみが逃げてまずくなる」と語る。

同社の工場でも早朝から約20人の社員やパートが黙々と殻をむいていた。「女性の就業率が高く、勤勉な県民性だから、このような地道な作業が成り立つ」との指摘もある。観光客や地元の人が舌鼓を打つシロエビ料理を縁の下で支えるのは、実は富山県民のまじめな県民性なのかもしれない。

(富山支局長 吉田力)

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