「蜩ノ記」小泉堯史監督に聞く 「全員が一点に集中」

黒澤明監督のまな弟子である小泉堯史監督の6年ぶりの新作が完成した。葉室麟原作「蜩(ひぐらし)ノ記」(10月4日公開)。ある罪のために10年後の切腹と自宅での藩史執筆を命じられた侍・戸田秋谷と、秋谷の監視役となった若侍・檀野庄三郎との師弟愛の物語。映画では秋谷が家譜を執筆し、隣で庄三郎が清書する場面がある。それは黒澤が脚本を書く傍らで、正座して清書したという小泉氏の姿を想起させる。「師」から引き継いだものは何なのか。小泉氏に聞いた。
こいずみ・たかし 1944年茨城県生まれ。東京写真大、早稲田大卒。カメラマンとして世界を放浪する一方で、70年黒澤プロに参加。「影武者」(80年)以降の5作品で助監督を務める。2000年、黒澤の遺稿脚本「雨あがる」を初監督。監督作に「阿弥陀堂だより」「博士の愛した数式」「明日への遺言」

黒澤さんと井出雅人さんが「影武者」の脚本を書いていた伊豆の旅館に資料を届けに行ったのが始まりです。「ここにいていいんだろう」と黒澤さん。数週間滞在し、話に加わりました。

機関車を動かしているのは黒澤さんです。昼は集中して書いている。僕は「小姓の名前、どういうのがある?」と聞かれれば、書き出しておく。「古風な言い回しはどうなる」と聞かれたら、狂言の本で調べる。

黒澤さんが書くシナリオはイメージが具体的で、テンポが速い。最初に読めるのが楽しみでした。

4時か5時に終わって、風呂、食事。その時いろいろ話をするのが面白い。黒澤さんに「信玄が館に帰ったらどういうことが起きるかね?」と聞かれ、「女と会うでしょう」「孫は(偽物と)気づくのではないですか」などと答えました。

黒澤さんには「禅寺に入るつもりで来い」とも言われました。黒澤さんはよく俳優に「白紙でいてくれ」と言うのですが、助監督もそれでいい。虚心というか、素でいればいいと思いました。何を学べたか自分ではわからない。ただ一緒にいる時間が楽しかった。

黒澤組では黒澤さんが向いている方向を一緒に向いていないといけない。「小泉!」と呼ばれたら、「はい」と走る。「何ですか」と言ってはいけない。黒澤さんが何を望み、何を狙っているかを懸命に考える。

虚心になるということは、黒澤さんへの尊敬がないとできません。スタッフ全員、黒澤さんへの尊敬と愛情があるからできる。全員が一点に集中する。それは黒澤組の長い歴史の中で作られてきたものです。

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