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映画「蜩ノ記」 本物の映画作り貫き、創意引き出す

2014/10/1

 黒澤明監督のまな弟子である小泉堯史監督の6年ぶりの新作が完成した。葉室麟原作「蜩(ひぐらし)ノ記」(10月4日公開)。ある罪のために10年後の切腹と自宅での藩史執筆を命じられた侍・戸田秋谷と、秋谷の監視役となった若侍・檀野庄三郎との師弟愛の物語。黒澤組のDNAを引き継ぎ、本物志向の映画作りを貫く小泉組のスタッフに話を聞いた。

 「映画に映るのはほんの数ページ。でも秋谷と庄三郎が書いたり、読んだりするものだから、本物でないといけない。そうでないと2人の芝居も違ってくる」

酒井直人(助監督)

 秋谷が編さんする藩主・三浦家の「三浦家譜」と、秋谷の日記「蜩ノ記」について、助監督の酒井直人(60)はそう説明する。撮影に使われた家譜は約100ページの本稿16巻に清書18巻。ほぼ同じ厚さの日記も10巻におよぶが、どのページにもきちんと文字がしたためられている。

 家譜は「新訂黒田家譜」など多くの家譜資料を集め、それらを参考に文章を作り、書家が実際に書いた。日記も現存する江戸時代の日記を参照して創作し、やはり書家が書いた。「乱」(1985年)以来の黒澤組の一員であるセカンド助監督、田中徹の仕事だ。

 秋谷役の役所広司と庄三郎役の岡田准一には書道の練習が課せられた。酒井直人ら演出部は、題字を書いた書家の星弘道が模範を示すビデオを作り、それを2人に見せ「あすはこの部分を撮るから練習してください」とそのたびに伝えた。

 それだけではない。岡田は居合を習うため、撮影開始の半年前から天真正伝香取神道流の道場に通った。役所とその娘役の堀北真希は所作を学ぶため小笠原流の稽古に励んだ。

映らなくとも

 「とにかく準備をしっかりする。監督のイメージを聞き、それを膨らませていくのが大事」と語るのは美術の酒井賢(76)。

 「見えないところまで作ることで、ものを感じさせる」のが黒澤組と、その流れをくむ森谷司郎組や小泉組の伝統だという。そんな酒井賢も「博士の愛した数式」(2006年)で出席簿の中身が違うことを小泉に指摘された。「俳優さんの心がなえることをしちゃいけません」と頭をかく。

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