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日経小説大賞

死刑囚巡る感情 真に迫る 大賞に「女たちの審判」 第6回日経小説大賞

2014/12/20

第6回日経小説大賞(日本経済新聞社・日本経済新聞出版社共催)の最終選考会が行われ、大賞は紺野仲右ヱ門氏の「女たちの審判」に決まった。拘置所を主な舞台とする題材の斬新さや、描写力の高さに評価が集まった。

400字詰め原稿用紙で300枚から400枚程度の長編を対象とする第6回日経小説大賞には、224編の応募があった。時代小説、歴史小説、経済小説、ミステリー、恋愛小説、ファンタジーなど幅広いジャンルの作品が寄せられた。応募者のうち50~60歳代が半数を占めた。最終候補となった5編のうち4編の作者が女性(受賞者夫妻含む)で、女性応募者の質の高さが目立った。

こんの・なかえもん 紺野信吾氏=写真(左)=と真美子氏=同(右)=の共著筆名。信吾氏は法務省矯正局に心理研究職として入省、辞職後は身体教育研究所で学び、現在は同技術研究員。51歳。真美子氏は警察事務職を経て刑務官として5年勤務。信吾氏との結婚を機に辞職、現在は壇上志保の筆名で作家。53歳。

第1次選考を通過した20編から最終候補作となったのは5編。拘置所を主な舞台に死刑囚をめぐる様々な人々の感情に迫った紺野仲右ヱ門氏の「女たちの審判」、高校生の少女と年老いた日系ユダヤ人のチェリストとの交流を通じていじめ、強制収容所の問題を問う仲野芳恵氏の「百年ソナタ」、戦国期、大内水軍の主力だった宇賀島海賊の興亡を海洋史のスケールでつづった乾浩氏の「大内水軍の裔(すえ)と南蛮への道」、毒草をもとにした薬を扱う治療師一族の娘を主人公とする高田在子氏の「幻草花の一族」、嘘の体験を口走ったことで戦争の語り部となった一人暮らしの男を描いた松田幸緒氏の「ユメノアト」が残った。

最終選考会は5日、東京都内で辻原登、高樹のぶ子、伊集院静の選考委員3氏がそろって行われた。まず各委員が授賞にふさわしい作品を複数推薦。「女たちの審判」「百年ソナタ」「大内水軍の裔と南蛮への道」の3作に票が集まった。その上で最終候補となった5作品の内容や完成度について意見を述べ合った。その結果、「女たちの審判」「百年ソナタ」の2作が推されたが、最終的に「女たちの審判」への授賞で一致した。

受賞作は夫妻の共作。「2人で手分けして書いているのか、人物造形に恐ろしいまでの実在感がある」「拘置所という『未知の領域』にもかかわらず、細部の描写に優れている」といった内容面が高く評価された。さらに「セリフでなく場面で読ませる。ユーモアもあって物語に引き込まれる」「時間の蓄積によって書けた小説」などと文章力の高さや展開の巧みさも支持を集めた。

〈あらすじ〉1989年、肥後拘置所の女性刑務官・母里直(もりなお)がいとこの由紀子に懇願され、誘拐殺人事件の主犯である梶山智樹に不正な方法で手紙を渡す。ハト行為と呼ばれる職務違反だが、梶山の子を産んだ由紀子の願いを断ることができなかった。やがて梶山は死刑判決を受けて控訴、高等裁判所のある博多拘置所に移送される。
7年後、博多拘置所で同僚からいじめを受けていた看守の土橋祐二にとって、上告中の梶山だけが気持ちの安らぐ話し相手だった。2人に信頼関係が築かれ始めたころ、梶山は「まだ見ぬ子どもがいる」と打ち明ける。梶山の言葉から母里直にたどりついた土橋は、直と一緒にいる娘の写真を撮る。
その模写を渡された梶山は「会ってみたい」と脱獄を計画するが……。知られざる拘置所内を舞台に、罪と罰を巡る様々な人間模様を、抑制のきいた筆致で描く。

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