スマホ子守 大丈夫? 子育て阻害…会話の機会に
子どもが泣く、ぐずる、騒ぐ。そうした時、思わず渡していませんか、スマートフォン(スマホ)を。小さな子どもにとって、動画やゲームが指で触るだけで出てくるスマホは手軽なおもちゃ箱。子育てを機械に頼ることにためらいはあるものの、多くの親が使ってしまうのが実態のようだ。そんな「スマホ子守」について考えた。
東京都文京区の一般社団法人小石川医師会。育児中の親向けに、毎月開く子育て支援セミナーでこのところ、毎回触れる話題がスマホ子守だ。
■母親に注意喚起
9月中旬のセミナーでは「スマホの使いすぎで赤ちゃんに大切なことを奪っていませんか?」と題した記事のコピーが配られた。授乳中に母親がスマホをいじったり、ぐずる子どもに安易に動画を見せたり、といった行為を戒める内容で、集まった30人ほどの母親たちに注意を促した。
セミナー参加者で、2歳の男の子がいる水野佳代さん(38)はスマホで動画は見せないし、ゲームや、音楽に合わせてリズムをとったりといった幼児用知育アプリも入れていない。「動画は2歳でも一度見せるとやり方を覚えちゃうので。夫にも、子どもの前で動画を見るのはやめてと言っています」。電車の中で騒いだ時には、外の風景を見るようにし、だめならスマホ内の写真を見せて会話をするように気を使っている。
セミナーを受け持つ内海裕美医師が常任理事を務める日本小児科医会は昨年12月、スマホ子守に警鐘を鳴らした。「スマホに子守りをさせないで!」と題したポスターを作成、「ムズがる赤ちゃんに子育てアプリの画面で応えることは育ちをゆがめる可能性がある」など6項目の注意点をまとめ、全国の病院に配った。
絵本も置いてあるのに病院の待合室で子どもにスマホを見せている親、幼稚園の園庭開放で子どもを勝手に遊ばせてスマホに夢中の親、鬼から電話がかかってきたように装って子どもを黙らせるアプリの人気ぶり……。親と子が向き合うべき子育てを「スマホが邪魔している」(内海さん)と肌で感じた小児科医たちが発した警告は、話題を呼んだ。
ただ、さはさりながら、悩みつつスマホを使わせている親もたくさんいるのが実情だろう。愛知県の主婦、高尾絵美さん(39)が6歳の四男に、文字を書く知育アプリで遊ばせ始めたのは2年ほど前。そのうち、三男用に入れたゲームアプリに興味を持ち、病院やレストラン、車の中などで「スマホちょうだい」とねだるようになった。
なるべく自分であやすようにしたが「私がかまう元気がないと、つい渡してしまう」。三男が小さい時は外出する際、絵本をたくさん持っていったが、それがスマホ1台で済むようになって正直、便利だという。ただ電車の中で騒ぐのを静かにさせられないと白い目で見られるし、かといってスマホを渡すとこれも白い目で見られている気がして、「どうしたらいいのか」と心情を吐露する。
医師会のセミナーに来た母親たちからも「電車で移動中に泣かれると、どうしても動画を見せてしまう」「母1人で子育てをしている現状では、子どもをあやすアプリはあった方が便利」という声が聞かれた。
知育アプリを開発しているスマートエデュケーション(東京・品川)は昨年11月、こうした親の悩みにこたえようと、外部の専門家とともに研究会を立ち上げ、乳幼児がスマホを使うときに気をつけるべき点を発表した。「親子で会話をしながら一緒に利用」「創造的な活動になるように」などの5項目。池谷大吾社長は「スマホを子どもにわたしっぱなしにするのはまずい。子どもを成長させるコミュニケーションツールとして使ってほしい」と話す。
ただ、この提言に対しても「知育アプリを売ろうとするためのもの」との批判が聞かれる。スマホが広く使われるようになってまだ2~3年。それが乳幼児の成長にどう影響するかの検証はされていない。テレビが出てきた時にはテレビが、ビデオゲームが出てきた時にはビデオゲームが、悪影響があると批判されたのと同じで、賛否が拮抗するのは新しいメディアが現れてきた過渡期の構図ともいえる。
■ツールの一つに
日本小児科医会の内海医師は「全く使わせない、とは言っていない。使うお母さんを責めるつもりもない。子どもがどう育つのかを知った上で、もう少し努力してほしい」と真意を説明する。
是とする側も否とする側も、子どもの健やかな成長を思うからこそ、という点では同じベクトルを向いている。長時間使わせるのは論外としても、親が子どもに応じたさじ加減を探る努力なしに使わせるべきではないのだろう。
子どものネットリテラシーを啓発するため、関西の母親たちが集まった任意団体「子供とネットを考える会」代表の山口あゆみさん(41)は、自らも4歳の次男の子育て中。外出する時は絵本もパズルもおもちゃも落書き帳も折り紙も、そしてスマホも持って行く。ぐずった時にどれで落ち着くかはその時次第。だから「あやすツールの一つとしてスマホがあってもいい」と思っている。
(編集委員 摂待卓)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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