全国発信、「あえてネットより本で」 有志が手作り

手作りの本を読んで、来れ我が町――。地域で仲間を集め、地元のガイド本をつくる動きが各地に広がっている。インターネットなどを活用してお金も集め、ワイワイがやがや意見を交わしながら本を作る。いまどきはネット上で情報を発信するのが一般的だが、彼らがあえて本にこだわるそのココロは……。
ゲラを見ながら編集会議をする「銚子人」の製作メンバーたち(東京・赤坂の博報堂本社で)

8月中旬、東京都港区のオフィスビルの一室で夜8時半すぎから、本の編集会議が始まった。壁面に立てかけた段ボールに張られて整然と並ぶ、写真や文章が印刷されたゲラ刷りを見ながら、楽しげな会話が弾む。

「銚子の3大観光スポットってどこ」

「犬吠埼灯台は絶対だね。朝日も夕日も両方見られるところってなかなかないんじゃない」「銚子大橋はどう。川にかかる橋としては国内最大級なんですよ」

会議は千葉県銚子市の旅行ガイド「銚子人」を作るためのもの。集まったのは同市出身の30代の男女4人。本業の仕事を終えてから、毎月1~2回集まり、終電近くまで議論を重ねている。

力武若葉さん(33)は都内の会社に勤める一級建築士。かつては港町としてにぎわった銚子も人口が減り、百貨店やショッピングセンターは閉鎖。実家に帰るたび、「町に元気がなくなったと感じていた」。何か町のためにできないか、と思っていた時に出合ったのが旅行ガイド作りだ。

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このガイドは「コミュニティトラベルガイド」と称し、広告代理店の博報堂が地域活性化のために支援する事業。第1弾は2年前に出た、隠岐諸島の島根県海士町を紹介する「海士人」。福井県を取り上げた「福井人」、東北の「三陸人」に続き、福井県大野市の「大野人」が7月に発売になるなど、これまでに4冊が出版された。

本は商業書籍として、全国の書店で販売される。異色のガイドとして評判を呼び、「海士人」と「福井人」は増刷し5千部近く売れた。「福井人」は地元大型書店の年間ベストセラーに入り、グッドデザイン賞にも選ばれたほどだ。

人気を集める原動力は、漁師や商店主など、通常の旅行ガイドでは取り上げない、そこに住む人々に焦点があてられていることだ。

事業を担当する博報堂の筧裕介さんによると、海士町から観光振興の相談を受け、旅行者の再訪率が高い理由を調べたら、旅館や商店の人との出会いが魅力という答えが多かったという。「人が観光客を集めるカギになるのでは、と思いガイドを作った」

「海士人」が出版されると、同様の本を作りたいという地域の人が次々現れた。いずれも出版とは無縁の仕事をする人たちだ。

本の製作は、まず本を作りたいという中心メンバーが決まってから、フェイスブックや口コミなどで告知し、地元でワークショップを開く。参加者にどんな面白い人がいるか挙げてもらい、後日実際に会いに行き、記事を書く。プロのライターや写真家が取材する時もある。

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