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吉田隆子 嘘のない作曲、反戦の思い

ヒロインは強し(木内昇)

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NIKKEI STYLE

「一人の人間として『男』と平等にあれ! 一方我に勉学の自由を与えよ!」。二十歳の吉田隆子はこんなメモを書いている。当時師について作曲を学んでいた彼女は、男社会である音楽界に不満を抱いていた。好きな道を極める上で、隆子はその生涯において、常に社会と戦わねばならない運命にあったのだ。

音楽には幼い頃より親しんでいた。念願のピアノを買い与えてくれた母が直後に急逝したこともあり、十二歳の彼女は以来、一心不乱に演奏に取り組むようになる。毎日十時間以上の練習。指がひょう疽になっても弾き続けた。作曲も学び、若くして女性作曲家の嚆矢として注目を浴びるまでに成長する。

ただし彼女は、注目されて満足するほど浅薄ではなかった。階層にかかわらず誰もが楽しめるような楽曲を提供したいと、日本プロレタリア音楽同盟(通称PM)の活動に参加。つまり、労働者階級のための音楽創作に精力を傾けるのだ。が、時は第一次世界大戦直後、日本もファシズムへの道を歩みはじめている。「蟹工船」の作者・小林多喜二が獄死したのも同じ頃だ。当然PMの活動は当局から弾圧を受け、解散に至る。が、隆子は反戦の意志を示し、第二次世界大戦終戦までそれを貫くのである。

自由に劇音楽を作曲し、舞台を行う隆子は結果、治安維持法違反と見なされ、碑文谷署に四度も収監される憂き目に遭う。もともと病弱なため、四度目の拘留時には慢性腹膜炎を起こし、生死の境をさまよった。そんな思いまでしてなお、自らの信ずる音楽を奏で続けた理由を、隆子はこんな風に書き残している。

「嘘のない作曲をしなければならないと思いました。(中略)もしも嘘の感情があったならば、どうして観客の心に入って行く事が出来るでしょうか」

創作は人の手による想像の産物である。だからこそ、その根幹には真実の思いがなければならない。それは時流に鑑みることでも、国家の意向に合わせるものでもなく、個人が確かに感じた思いを偽りなく宿すことでしか形にならない││隆子はそう感じていたのではないだろうか。音楽というものが、人の心を支え、救い得るものだと信じていたからこそ、きっと、作曲家としての役割の大きさを背負う覚悟を決めたのだ。そこには男女の壁や社会的弾圧が付け入る隙もないほどの、強靱な使命感があったのだろう。

国家による検閲や弾圧が必ずしも過去の遺物ではないように思える事象が、近頃目に付くようになった。自由な表現はいかなる時代でも守られるべきだし、統制によって幾多の希有な才能が失われることの虚しさを、各々が強く意識すべきときが来ているのかもしれない。

隆子が生涯を捧げた「音楽を探究する」という仕事は、本来豊かなはずのものだ。だがその過程で、彼女が乗り越えねばならなかった多くの苦難を想像するだに、あの薄暗い時代に戻してはいけないと強く思うのである。

[日本経済新聞朝刊女性面2015年5月2日付]

木内 昇(きうち・のぼり) 67年東京生まれ。作家。著書に「茗荷谷の猫」「漂砂のうたう」(直木賞)「笑い三年、泣き三月。」「ある男」など。

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