Iターン女性が増加、地方を元気に

2015/5/30

都会から出身地とは違う地方へと移り住み、地域の魅力を再発見、活性化へと力を発揮するIターン女性が増えている。

「私は地元の人にはどうがんばったってなれない。でも都会暮らしをしてきた視点で提案する。小さな町に何か面白いことが起きそうだと感じる人がでてくるといいな」

廃校を利用して自然教室・環境教育をする宿泊施設「星ふる学校くまの木」は里山の農村風景が広がる栃木県塩谷町にある。運営するNPO法人の事務局長、加納麻紀子さん(41)は夫を説得し2010年、神奈川県藤沢市から家族で移り住んだ。

「くまの木 里の暮らし」事務局長の加納麻紀子さん(栃木県塩谷町)

東京にある農林水産省の外郭団体で事務職をしていた加納さんは、農村環境教育のプロジェクトに関わるまでは「田舎暮らしに興味もなかった」。それでも、「田んぼの学校」として全国各地を訪れ、里山について学ぶ場をつくる活動を続けるうちにできた仲間が、次々と地方の現場で暮らし始める姿を見てまぶしかった。

塩谷町の山々を走る道路は夜、真っ暗。マンションの下にコンビニも病院もあった藤沢市の暮らしと比べると不便だが「水が流れているのをみると何か安心感がある」。

星ふる学校には都会から小学生が体験学習で泊まり込んだり、若者たちが「里山で運動会やろうよ」と呼びかけてやってきたり。運営は独立採算に乗る。彼らに地元の水や野菜、コメの話を伝えることなどを通じて、「里山の小さな暮らしをかじってみる、きっかけになれば」と話す。6月には太陽光を使った料理イベントを開くそうだ。

兵庫県で農作業を通じて高齢化した町を応援するボランティアをしていた岸本佳美さん(28)は5年前、島根県飯南町の地域おこし協力隊に応募した。協力隊は総務省の取り組みで、都市圏に住む人が住民票を地方に移し、農林漁業や住民の生活支援をするという活動だ。隊員には上限で年200万円の報酬がでる。

飯南町は閉鎖になった小学校を住民活動の拠点にしようとしていた。育児サロンや展示会を開き、「住民の皆さんと何度も話し合いながら、一緒に頭をひねる3年間でした」と岸本さんは振り返る。

「頼りなくいろんなことを教えてもらいながらだったけれど、『廃校で子どもの声が消えたのが寂しい。子どもたちを集めて夏の1日林間学校をしませんか』と提案したら『やってみるか』と動き出したのがうれしかった」

隊員の経験を生かし、今はふるさと島根定住財団に職を得た。田舎ツーリズムやNPOの応援など「都会からやってくる人の支援役として働きたい」と意気込む。

「店舗を柱にしたブランドを作りましょう」。中小企業基盤整備機構の沖縄事務所で、チーフアドバイザーとして地元企業に助言する並木万希さん(54)は東京出身の移住者だ。日本コカ・コーラなど大手食品メーカーでマーケティングなどの仕事をしていた。

支援先の精肉店が加工製品の販売に乗り出した。ブランド化するために並木さんは会社の歴史に目を付けた。観光客が多い「牧志公設市場」に創業以来、店を構えること、沖縄ならではの肉文化の魅力を前面に押し出し4月、ソーセージやスモーク肉など約30種類の発売にこぎつけた。

05年、地元男性との出会いを機にIターンした。「沖縄に来て、日本を支えるのは確かな技術を持った地方の中小企業だと気づいた」と地域の潜在力を実感している。

地域の原料を使ったせっけんなどを製造販売するフローモの石渡みち代さん(沖縄県嘉手納町)

沖縄県嘉手納町の一軒家に手作りせっけん店「FROMO(フローモ)」を構える石渡みち代さん(51)は02年、夫の仕事に付いて東京から移住した。地元の化粧品会社などを経て08年に起業した。

ハイビスカス、月桃、ウコンなど沖縄特有の植物を使ったせっけんを作るのは「人間が自然に生かされていると強く感じた」から。東京時代、ライオンで研究開発を担当していた。小さな店に広告費用はなく、インターネットと店舗で販売していたが、徐々に口コミで評判に。県内の高級ホテルが置くようになった。

「新潟の生産者と都市の消費者をつなぎたいんです」。情報誌「稲花」編集長の手塚貴子さん(52)は声を弾ませる。毎号1つの農作物を取り上げ、どんな人がどう育てているかを冊子で紹介、その農作物を購読者に届ける。「生産者の苦労や工夫を知れば食物への愛着も増す」。14年秋の創刊号は洋ナシ「ル レクチエ」を特集し、今春の第2号はイチゴ「越後姫」を取り上げ、次号は蜂蜜の予定だ。

北海道生まれ東京育ち。13年秋に新潟市郊外に来るまで半世紀を東京で過ごした。小さな会社を経営し、ホームページの作成管理や広報誌の編集に携わった。だが仕事に追われ「こんなせわしない生き方をいつまで続けられるのか」。12年に仕事で訪れた新潟の自然に感動し、独身者の身軽さもあり移住を決めた。

14年に田んぼを借りて稲作に挑戦。「朝から晩まで草取りをしても終わらない。誰もいない田んぼで大声で悪態をついた」と苦笑する。生産者の苦労を都会の人は分かっていない。東京で培ったスキルが情報誌「稲花」発行につながった。紹介したい農作物を見つけるとアポなしで農家訪問し、直談判で口説き落とす。「私程度のスキルと知恵の持ち主は東京ならごまんといるけど、ここでは大切にしてもらえる。その分、新潟に貢献したい」と強調する。

内閣官房が昨年8月、東京在住の女性600人にインターネットで尋ねたところ、地方への移住を「検討したい」と考える女性は10~20代で47%に達した。30代は39%だ。出身地へ戻るUターンなどを含むが、地方生活への関心は高い。理由として10~20代が「結婚」、30代が「子育て」。考える上で重視するのは10~20代が「生活コスト」「買い物の利便性」の順で、30代は「仕事」「買い物の利便性」が同率で1位だ。

移住したくない人の理由は10~40代まで「公共交通の利便性が良くなさそう」。移住する上での不安は「働き口が見つからない」が最多だった。

地域社会の女性活用策に詳しい中央大ビジネススクールの佐藤博樹教授(人的資源管理)は「Iターン女性は地域の貴重な戦力となり得る」と指摘。「ただ、いきなりの移住はハードルが高く、その前に地域でのネットワークづくりができると良い。夏休みに子供を預けるサマースクールや週末の勉強会など、地域と移住希望者の関係を徐々に築いていくような仕掛けが有効ではないか」と話している。

(生活情報部次長・田中映光、木寺もも子)