昨年6月、静岡県動物保護協会に1通の封筒が届いた。差出人名はなく、職員が不思議に思いながら開封すると一万円札10枚と「寄付金10万円」と記した一筆箋が出てきた。会費が減って予算が厳しくなる中、貴重なお金だ。

静岡県動物保護協会に届いた10万円を入れた封筒と一筆箋

ところが寄付は1回で終わらなかった。今年3月と10月にも10万円ずつ同じ形で届いた。「大変ありがたい」（野田哲郎事務局長）と、同協会はこの事実を公表。ホームページに誰とも知れぬ寄付者に向けたお礼の言葉を掲載した。寄付は年1回の動物愛護イベントの経費として活用したという。

3通の消印はいずれも石川県の新金沢郵便局。「新金沢」発の封書による匿名寄付は赤い羽根で知られる共同募金会でも続いている。筆跡は動物保護協会のものと酷似しており、同一人物とみられる。

2011年2月、7万5千円が北海道共同募金会に届いたのを皮切りに、列島を縦断するようにほぼ全都道府県の募金会に、同額が同年中に届けられた。12年に入ってからは10万円がランダムに各地の募金会に。13年は大雪や竜巻、豪雨など災害に遭った地域を中心に送られた。今月2日に兵庫に届いた10万円までで、累計の寄付額は約870万円に達した。

これほど多額をいったいなぜ。送り主がどんな人なのか知りたくなるのが人情だが、中央共同募金会の募金開発チームリーダー、山内秀一郎さんは「こういう形で送っているのはあまり騒がれたくないからだと思う。深く詮索していません」と話す。

匿名寄付は今や一部の篤志家の行為だけではなく、現象として広がりを見せている。日本キリスト教海外医療協力会（東京・新宿）には8月と11月、福島県のいわき郵便局の消印で計43万円が送られてきた。同会はいわき市の仮設住宅で健康相談会を開いている。大江浩事務局長は「東日本大震災の被災者の方からの寄付だとすると、ご自身が支援を受けたので海外も助けてほしいという特別の気持ちを感じる」と深謝する。

川崎市高津区役所には1月末、新品のランドセルが3個、宅配便で届けられた。送付者は「Kae」。「大人が責任を持って（中略）笑顔と幸せを与えられる社会、世界にしていきます」という手紙が入っていた。