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来春始まる子ども・子育て支援新制度は専業主婦など家庭で子育てをする親への支援も柱の1つだ。だが待機児童対策に注目が集まり、議論が深まらない。消費税率アップの先送りなどで、財源不足から子育て支援事業の着手が遅れる可能性も懸念され、地域で子育て支援を担ってきた市民団体らはやきもきしている。

「整備目標は作りましたが、消費税率アップが先送りになると計画通りとは限りません」。関西で子育て支援を手掛けるNPO法人代表は最近、行政の担当者にこうクギを刺された。子育て中の専業主婦らが子連れで集まれる施設を運営する。地元の自治体は新制度が始まる来年度から5カ年で質量ともに拡充する計画を立てた。その受け皿となるべく準備を進めているところだった。

各自治体が14事業

子どもを遊ばせながら、顔なじみの母親同士で会話も楽しむ(横浜市の「おやこの広場びーのびーの」

子どもを遊ばせながら、顔なじみの母親同士で会話も楽しむ(横浜市の「おやこの広場びーのびーの」

地域子ども・子育て支援事業は、家庭で子育てをする人が主な対象。保育園整備や認定こども園の普及とともに新制度の柱に位置づけられている。親子が集う子育て支援拠点や、子育てに関する情報提供や相談を担う利用者支援、子育ての専門家が自宅まで出向く養育支援訪問など政府は14事業を例示。計画的な普及を各自治体に求めている。

仕事と子育ての両立のために待機児童対策も重要だが、3歳未満の約7割は今も家庭で育てられているといわれている。厚生労働省の2010年21世紀出生児縦断調査によれば、子育てを負担に思う割合は専業主婦80.7%、就業中の母親79%とほとんど差はなく、家庭で子どもを育てる親への支援も大切だ。

ただ多くの自治体は待機児童対策に労力が取られ、対応は後手に回っている。例えば利用者支援でも、空いている保育施設を保護者にあっせんする「保育コンシェルジュ」の実施を優先するなど、子育て中の専業主婦世帯への支援は手薄だ。

「ここがあるから子育てを楽しめている」。横浜市の菊谷佳子さん(45)は強調する。「おやこの広場びーのびーの」に長女(4)の出産直後から足しげく通っている。夫と3人暮らし。頼れる親族は近隣にいない。里帰り出産で2カ月は実家で過ごした。だが自宅に戻ると、日中は娘と2人きり。子どもを産むまで仕事を続けていたので近所の人たちとのつながりもなかった。

初めての子育ては分からないことだらけ。でも相談する相手はいない。そんなときに「びーのびーの」を知った。商店街の空き店舗を使い、乳幼児連れで母親らが集う。子どもを自由に遊ばせられる。専任スタッフが見守るので子どもから目を離して親同士で会話も楽しめる。「家で娘をきつくしかりすぎて落ち込んだときもここで話したら『私もよくやる』『つい怒っちゃうんだよね』と共感してもらえて元気になれた」

運営主体のNPO法人びーのびーの(横浜市)は同様の施設を市内でもう1つ運営する。2カ所の利用者は年間延べ4万人に上り、家庭で子育てする母親らの育児不安解消に一役買っている。

地域の子育て支援は市民団体らが行政に先行してきた歴史がある。NPO法人子育てネットワーク・ピッコロ(東京都清瀬市)もその1つ。1998年設立。母親らが子育て期の経験を基に「あったら助かった」支援策を次々と実現してきた。親子で集える場所づくり、理由を問わない一時預かり、家事育児ヘルパー派遣、先輩ママの訪問相談、緊急時の24時間保育……。ピッコロがまず始め、後に行政の補助金が付き、公的サービスに"格上げ"されたメニューも数多い。

「こうしたきめ細やかなサービスが新制度で全国に広がると期待していた」と理事長の小俣みどりさんは話す。小俣さんは新制度でどんな施策に取り組むかを検討する市の会議のメンバーも務める。「議題の中心は待機児童問題。家庭で子育てをする親への支援拡充を訴えても、ほかのメンバーや行政担当者に響かない」と嘆く。

政府「新制度施行、予定通り」

子育てしやすい社会を目指す新制度。幼児教育や保育、子育て支援を質量ともに充実するには1兆円は必要だと政府は見積もる。このうち7千億円は消費増税分を充てるはずだった。自治体は新制度に基づき15~19年度の子育て拡充計画を立てた。政府は11月下旬に全国自治体の事業計画の概要をまとめた。ただこの計画の前提は来年10月に消費税率が10%に上がること。1年半先送りされればもくろみは外れる。

政府は新制度施行は先延ばししない方針だが、財源のめどは立っていない。現状は「来年度政府予算で手当てする。地域子育て支援事業も含めて極力予定通りに計画を進めていきたい」(厚生労働省少子化対策企画室)。冒頭のケースにあるように各自治体は来年度政府予算の行方を見守りながら事業の取捨選択を視野に入れている。

NPO法人子育てひろば全国連絡協議会(横浜市)理事長の奥山千鶴子さんは「核家族の増加と地域関係の希薄化で子育て世帯は孤立しがち。保育園や幼稚園も大切だけど入園前の子どもを家庭で世話している親に手を差しのばさないと子育て環境は改善しないし、少子化も克服できない」と指摘する。

(編集委員 石塚由紀夫)

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