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2015年4月に始まる子ども・子育て支援新制度で、共働き家庭などの小学生を放課後に預かる学童保育(放課後児童クラブ)の位置づけが大きく変わる。市町村が行う事業として、自治体の責任が明確になるのだ。働く母親の増加で学童保育の需要は高まるばかり。育児と仕事の両立を阻む「小1の壁」を打破すべく、先行する地域では、保育内容の充実や施設の拡大に動いている。

「夜まで預かり、夕食も出してくれるのは本当にありがたい」。昨年12月、東京都千代田区にできた学童保育「ポピンズアフタースクール一番町」。小1の子が通う会社員のA子さん(38)は話す。

午後7時以降6%

滝頭小学校の「放課後キッズクラブ」では午後5時がおやつタイム(横浜市)

滝頭小学校の「放課後キッズクラブ」では午後5時がおやつタイム(横浜市)

保育大手のポピンズ(東京・渋谷)が開設、運営するこの学童は、千代田区が児童を募集し、賃料や運営費を補助している。近くの番町小や麹町小に通う子どもを中心に26人が登録し、放課後を過ごす。異色なのは、午後9時まで延長が可能で希望者には夕食(500円)も出す保育内容の手厚さだ。

A子さんが残業のとき、子どもは月に数回の割合で「夕食付き延長保育」を利用する。「夕食を学童で食べれば、寝る時間も遅くならずにすむので助かる」

子どもが小学生になると預け先に困り、仕事を続けにくくなる「小1の壁」。学童の不足に加え、終了時間の早さも働く母親を悩ませる。厚生労働省によると、午後7時を過ぎて預かる学童は6%だ。

千代田区が、午後7時以降の夜間保育への補助を始めたのは11年度。地価が高いため、夜間保育に対応可能な民間企業が単独で学童を作るのは難しいが区民の要望は強かったため、区が賃料などを補助することにした。区が関与する学童12施設のうち、ポピンズとJPホールディングスの子会社が運営する学童2カ所で夜間保育を実施中だ。

いずれも両社が運営する認可保育園に学童を併設した。夕食を保育園の調理室で作ることができるためだ。利用者は保育料(月2000円)に加え、夜間保育料として月3000円を払う必要があるが、区民には好評だという。

子育て新制度では、学童は市町村の事業となり、整備計画や設備・運営の基準づくりをする責任を負う。政府は「19年度末までに30万人分の確保」を目指しており、自治体は急ピッチで受け皿づくりやサービス拡大を進める必要がある。

とはいえ、都市部だと施設を作ろうにも場所がない。そこで有望視されているのが小学校の活用だ。

「おいしいおやつ、いただきます」。平日の午後5時すぎ。横浜市磯子区の滝頭小では、小1生を中心に子ども17人がおやつを食べていた。昨年10月に開設した「放課後キッズクラブ」での光景だ。

放課後キッズクラブは、横浜市が不足する学童の受け皿として学校内に開設中。放課後から午後5時までは遊びの場として、午後5時から7時までは保育の場として子どもを預かる。

市は19年度末までに、このキッズクラブを市内341の小学校全てにつくることを決めた。現在約1万2000人の学童利用者が、19年度には約2万4000人になるとの試算が出たためだ。「受け皿を増やすには、学校内に作るのが有力かつ唯一の策」(同市)。現在ある92校に加え、200校以上にある放課後の遊び場「はまっ子ふれあいスクール(放課後子供教室)」を衣替えしていく。

キッズクラブの運営はNPO法人のほか、株式会社にも開放しており、滝頭小のキッズクラブは、給食事業を手掛けるソシオークホールディングス(東京・渋谷)のグループ会社、明日葉(同)が運営している。体育講師の社員を月に数回派遣し、遊びを通して運動を教えるなど「楽しく放課後を過ごせる場を目指している」(同社)という。

「ポピンズアフタースクール一番町」でハンドベルの練習をする子どもたち(東京都千代田区)

「ポピンズアフタースクール一番町」でハンドベルの練習をする子どもたち(東京都千代田区)

政府は「放課後子ども総合プラン」で、キッズクラブのように放課後の遊び場と学童を合体した事業を1万カ所以上で実施することを目指す。用地不足に悩む自治体には、現実的な解になりそうだ。

厚労省によると、14年5月時点の学童の待機児童は9945人。3年連続で増えた。ニーズに整備が追いついていない状況だ。

都市部では、学童の不足などを背景に、自治体が関与しない形での民間企業による学童が増えている。ただ通常の保育料が月1万円程度なのに対し、週5日で月5万円程度かかる施設が多いため、誰もが利用できるとは限らない。

子どもの満足度も

待機児童がさらに深刻になりそうなデータも出てきた。11月28日、政府は自治体の調査を基に、今後5年間の需要予測を子ども・子育て会議で示した。3年後の17年度で8万3千人、19年度でも5万1千人分の不足が見込まれるとの結果だった。

受け皿の確保に加え「子どもから見て行く価値がある場所か、という質の議論も進めてほしい」と話すのは、日本総合研究所の主任研究員、池本美香さんだ。

池本さんによると、英国では、子どもの意見を踏まえて活動内容やおやつの中身を改善する施設が評価されるなど、子どもの満足度が非常に重視されているという。池本さんは「つまらなければ子どもは行かなくなり、結果的に親は安心して働けなくなる。量の拡大だけでなく、子どもが安心できて楽しいと思える場所づくりを目指してほしい」と指摘している。(編集委員 武類祥子)

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