お受験、習い事… 今どきはパパ主導が当たり前?
「部活に行ってくるよ」。慶応義塾普通部(中学)に今春入学し、部活動を楽しむ息子。後ろ姿を見送りながら、阿部泰士さん(41)は父子で勉強に取り組んだ昨年の受験シーズンを思い出す。
ネット広告会社を営む阿部さん自身も中学受験を経験。「入った学校で一生の仲間ができた。息子にも同じ喜びを味わってもらいたい」と中学受験を勧めた。下の子供の世話で忙しい妻に代わり、自ら勉強の指導役も買って出た。
息子がスランプに陥った小6の夏、阿部さんは集中力欠如が原因とみて「30分学習セット」という勉強法を編み出した。25分間は何があっても机から離れず勉強する。その後5分の休憩を加えた30分を1セットとし、集中して勉強する癖を身に付けさせるためだ。
当然、阿部さんはつきっきり。問題も解くので負担は軽くない。それでも一時期は1日20セット(10時間)をこなしたという。かいあって息子はスランプを脱出。二人三脚で挑んだ受験は、第1志望校の合格という最高の結果を得た。
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阿部家のように父親主導で中学受験に取り組む家庭は、もはや普通のようだ。東京ガス都市生活研究所の2013年の調査によると、子の中学受験期に勉強を見ている父親は56%。高校受験期でも37%に上った。中学受験塾「SAPIX」も、10年前は保護者面談に来る父親はほぼ皆無だったが「今は3割ほどの家庭が夫婦で来る」。
小学校受験でも父親の存在感は増している。桐朋学園小学校(東京都国立市)の来春の入学希望者向け説明会にはスーツ姿の父親が多数いた。運営を手伝った卒業生の男性(29)は「校風や授業内容について父親たちから質問攻めにあった」と驚く。
なぜ、ここまで父親が関わるのか。東京ガス都市生活研究所の主幹研究員、青柳恵子さんは、子育てに積極的にかかわる父親の増加が背景とみる。「子の成長に伴い勉強や受験のサポートをするのは自然な流れ」(青柳さん)。少子化で子育ての機会が減ったことが大きい、とみるのは湘南学園小学校(神奈川県藤沢市)の河本洋子教頭。「子育てに熱心な父親ほど受験も貴重な機会と考える」と話す。
こうした父親たちの変化は、夫婦関係にも前向きの効果をもたらす。「受験を考える前は、妻とこんなに深く娘のことで話し合ったことがなかった」と話すのは、今春、娘を湘南学園小学校に入学させた会社員の太田淳之さん(44)。受験を控えた昨秋、妻と毎晩のように娘をどう育てたいか、子育て観をぶつけあい、すり合わせる作業を続けた。妻の育児への喜びや悩みを聞くことも増え「夫婦の絆も強まった」と振り返る。
ただし、父親の参加は子どもの負担になるケースもあるので注意が必要だ。受験事情に詳しい信州大学学術研究院准教授の牧田幸裕さんは「両親ともに頑張らせようとすると、子の逃げ場がなくなる」と話す。「頑張らせる人と守る人の両方が子には必要。事前に夫婦で役割分担を決めたほうがいい」と提案する。
つまり、教育ママと教育パパがそろってはたまらないということ。受験から参入するより、早くから母親との分担を考えつつ、何ができるかを考えることが肝心なようだ。
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乳幼児の習い事同伴も
子どもの習い事の分野でも、父親主導が目立つ。「怖くないよ」。プールの水を怖がる赤ちゃんに優しく声をかける父親たち。スポーツクラブ「ティップネス」の川崎店(川崎市)が毎週日曜に開く親子同伴のベビースイミング教室は、参加する親の7割強が父親。同店によると「ママに代わりパパが参加するケースがかなり増えている」。
息子と参加した会社員の玉田佳樹さん(36)の場合、もともとは妻が付き添っていた。水泳好きなこともあり、ある日付き添い役を買ってでたところ、息子が水に慣れていく姿を見るのが楽しい。毎週末、同伴するようになった。
平日は仕事で息子と過ごす時間は限られる。「せめて休日は思いっきり息子と過ごしたい。水中でニコニコする姿を見られて本当にうれしい」(玉田さん)
連合(東京・千代田)が1月にまとめた調査では、子どもの習い事の送り迎えをする父親は13%いた。末子年齢が0~2歳の時点では7%だが、習い事が増える小学校低学年になると「習い事送迎パパ」は23%にのぼる。乳児の段階から子どもの習い事に関心を持つパパたちが増えれば、母親の育児負担の軽減にもつながりそうだ。
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