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日本の歩き方

さらば伝統美 ホテルオークラ東京建て替え

2015/1/13

9月から本館の建て替え工事が始まる

東京・虎ノ門にある「ホテルオークラ東京」にとって、2015年は特別な年になりそうだ。前回の東京五輪の2年前、1962年に開業した本館の営業を8月末に終了。約1000億円を投じ、建て替えに着手する。

米紙も報道

「各地で嘆き悲しむ声」、「一時代の終えん」――。米ニューヨーク・タイムズは昨夏、「さよならオークラ」と題する記事を掲載した。それほど惜しまれるのは、「1万8000坪の芸術」と呼ばれるほど、日本の伝統美が凝縮された建物だからだ。

制服を身にまとったベルボーイが迎えてくれる

ロビーでは麻の葉を模した木組みの格子が美しさを演出。天井からは切子玉をイメージした照明が温かみのある光を放ち、「オークラ・ランタン」の愛称で親しまれている。テーブルとイスを上から眺めると梅の花のように見えるのも特徴だ。外壁には城郭や土蔵などに見られる「なまこ壁」を採用。建物も客室がすべて外側を向く三ツ矢の形にするなど、随所に工夫が凝らされている。

米オバマ大統領、サッチャー英元首相、ジョン・レノン――。ホテルは世界各国の名だたるVIPを受け入れてきた歴史を持つ。政財界の御用達で、パーティーや記者会見もよく開かれる。国会に近いことから、政局の舞台になったこともある。

創業者の大倉喜七郎は「建築やインテリアに日本美術の粋を集め、日本ならではの国際的なホテルを作る」という構想を掲げた。建設には当時の日本を代表する工芸家や建築家らが参加、「同じ建物は2度とできないだろう」との評もある。

そんな建物を建て替える。背中を押したのは、やはり20年東京五輪の開催決定だ。「最高の施設に刷新し、洗練されたおもてなしを堪能できる空間をつくるのが使命」。ホテルオークラの荻田敏宏社長は強調する。

コンソメスープは創業時からある人気メニュー

同社では施設の老朽化を背景に約5年間、建て替えについて議論を重ねてきた。伝統をどう継承していくか、建設コストの高騰への対応は――。

一部には慎重論もあったが都内は今、ホテルの開業ラッシュ。特に目立つのが外資系の進出だ。すぐ近くの虎ノ門ヒルズにオープンした高級ホテル「アンダーズ東京」の評判も上々だ。経営環境が変わるなか、現状維持という選択肢はなかった。

工事中も隣接する別館は営業を続け、ホテルの財産である料理やサービスを次代につなげる。

味やサービス、どう伝える

コンソメスープのブイヨン作りの工程を見守る善養寺明・洋食調理総料理長

「新しい本館でチャレンジは必要だが、伝統の味は必ず残していく」

1973年に入社した洋食の善養寺明・総料理長は言う。代表的なメニューがコンソメスープだ。「どんなスープでも基本的には1日でできるが、コンソメは違う。食材の吟味、火加減の調節、鍋底で焦げ付かないようかき混ぜるタイミングなど高度な技術が求められ、完成には3日かかる」といい、琥珀(こはく)色で深みのある味にファンは多い。

同じく創業時からある和食店「山里」は、客の評価を必ず聞き次の料理に反映させる。売り物のタイのあら炊きなど120種以上のメニューを用意しているのも客の多様なニーズに応えるためだ。和食の沢内恭・総料理長は「おいしいと感じてくれるものを提供するのが料理の本質」と話す。

本館は195メートルと85メートルの2棟のビルに生まれ変わる(完成イメージ)

「今のロビーのたたずまいがなくなるのは正直、もったいないなと思う」

こう語るのは、服部崇・営業企画部長。婚礼や広報などの仕事を経験、ホテルを良く知る1人だ。「だが、形は変わってもおもてなしの精神を引き継ぐことが大事」

ホテルは現在、建て替えまでのカウントダウンイベントを実施中だ。宿泊、営業、調理など各部門から1人を選抜、30代を中心とした中堅社員が週1回集まってアイデアを出し合う。従来は実施していなかったロビーでの結婚式や、顧客が保管しているホテル写真の募集、一般向けには販売していない貴賓室「ロイヤルスイートルーム」の宿泊プランなど、様々な内容を企画する。「いかに記録と記憶に残せるものにしていくか」(服部さん)、知恵を絞る毎日が続く。

新本館誕生は19年

42階建て(高さ195メートル)と17階建て(同85メートル)の2棟からなる新しい本館がお目見えするのは19年春。客室は約550と現在に比べ約3割増加し、オフィスも入る複合施設に生まれ変わる。敷地面積(約2万6000平方メートル)の6割は庭園や緑地で、都会のオアシスとして開放する。あとは、良き伝統をどう継承していくか――。

東京五輪に向け外国人宿泊客がますます増えることが予想されるなか、「日本の最高級のラグジュアリーホテルであり続ける」(荻田社長)ための努力には終わりがない。(細川倫太郎)

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