東北・フルーツ王国 驚きの甘さ育む昼夜の温度差東北果物紀行

福島のモモ健在

モモを生産する福島市の「まるせい果樹園」。「はしごから手をいっぱいに伸ばして取ると実を傷つけやすい。こまめに移動して優しく取るんです。我が子のようにね」。収穫を進める社長の佐藤清一さんの表情は真剣だ。

日川白鳳の収穫。実を傷つけないよう丁寧に取り入れる(福島市のまるせい果樹園)

同じ木でも熟度には差があるため、熟れた実を選んで収穫する。2~3日おきに4~5回に分けて収穫することで甘くなったモモだけが店頭に並ぶ。長い経験で培われた農家の知恵だ。

13年の福島県のモモの収穫量は2万9300トンで、山梨県に次ぎ全国第2位。順位は震災前から変わらず、東京電力福島第1原子力発電所事故後も“モモ大県”の地位は不動だ。全国の収穫量に占めるシェアは13年で23.5%と前年比3.2ポイント上昇した。

収穫シーズンは7月上旬から9月末まで。贈答用としての人気も高く、この時期、県内の直売所ではモモの発送を申し込む人が後を絶たない。

県内でのモモ栽培は明治期に県北の伊達市や桑折町などで始まった。大正期以降、養蚕業の不振を受けて桑からモモへ転換が進んだ。戦後になると缶詰用の栽培が拡大。生食用の生産が増えたのは昭和40年代に入ってからという。

「福島盆地の肥沃な土壌や完熟に必要な夏の暑さがモモの栽培に適していた。農家にとっては夏場の現金収入となる作物として重宝された」。県農業総合センター果樹研究所の阿部和博主任研究員は説明する。

農家や農業技術者の地道な努力も見逃せない。例えば主力品種のあかつき。1959年に国の試験場で原種が生まれ、12県で試験栽培が進められたものの、11県は栽培をやめた。味が良く日持ちもするが、実が小さかったためだ。

しかし福島県は栽培技術の改良を続け、大玉化に成功。79年に品種登録した。その後もはつひめ、ふくあかりなど福島オリジナル品種の誕生が続き、産地に活気をもたらしている。

モモは価格が安定していることから農家の生産意欲が高く、次世代の担い手の確保も比較的順調という。12年以降、タイやマレーシアへの輸出が始まり、販路は海外にも広がっている。

原発事故による風評被害は残る。「風評のため依然10~15%程度、価格が押し下げられている」(県園芸課)。とはいえ価格も直売所を訪れる人出も回復傾向にある。県は安全性のPRや品種改良、生産省力化技術の開発などの手をゆるめず、生産量トップの山梨との差を縮めたい考えだ。