日本ワイン普及へ後押し ソムリエ協会、専門店…

2015/1/5

日本の歩き方

2014年秋、福岡市で開かれた第7回全日本最優秀ソムリエコンクールの決勝。予選を勝ち抜いてきたファイナリストの度肝を抜いた問題があった。ワインリストの間違い探しだが、14本すべてが日本ワインなのだ。

専門家も熱い視線

全日本最優秀ソムリエコンクールでは3人のファイナリストがテイスティングなどを競った(福岡市)

「安心院スパークリングワインブリュットシャルドネ2012、安心院葡萄酒工房/宇佐市安心院町、大分県」「グレイスワインキュヴェ三澤甲州垣根仕立2013、明野ミサワワイナリー/北杜市明野町、山梨県」……。延々と並ぶリストの中から、産地や生産者の誤りを指摘しなければならない。

ファイナリストたちはこの問題に冷や汗をかいていた。優勝した石田博さん(東京の「レストラン アイ」勤務)さえ「リストを見たときは(出場は)やめておけばよかったと思った」と後で苦笑いしながら明かした。

日本ワインのリストの誤りを見つける問題が出た(福岡市)。

コンクールを主催する日本ソムリエ協会(東京・千代田)は今、海外に加え「日本」を重視する姿勢を打ち出している。背景にあるのは日本食や日本ワインに対する関心の高まりだ。和食がユネスコの無形文化遺産となり、「甲州」など日本ならではのワイン向けのブドウ品種も世界で認められた。意欲的な若手生産者の登場などで品質が向上し、「家飲み」の消費も増えている。

協会が認定するソムリエの資格保有者は現在約2万人(より専門的な知識が求められる「シニアソムリエ」など含む)にのぼる。外国人観光客が1300万人を突破して過去最高となり、20年には東京五輪が開催される中、日本のワインをソムリエがきちんと説明する重要性は高まっている。

すでに今でも「シンガポールや香港などの富裕層が日本で食事するときは日本のワインを注文する。彼らはフランスなどの有名ワインは飲んでいて、日本では日本のものを求める」と指摘するワイン事業者もいる。

かつて日本のソムリエはフランスやイタリア、ドイツなどワイン銘醸地の様々な知識を披露し、客に楽しんでもらっていた。

北条ワイン醸造所ではソムリエらが甲州ブドウなどの説明に聞き入った

例えば1本100万円もする高価なワインとして知られる「ロマネ・コンティ」。フランス・ブルゴーニュ地方にあるヴォーヌ・ロマネ村のピノ・ノワールというブドウ品種で造られ、生産者はドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)。ほかに「ラ・ターシュ」という銘柄も作る……などは従来型の勉強をしてきたソムリエなら語れる。しかし「山口県唯一のワイナリーは」と問われて答えられるソムリエは少ないのではなかろうか。

日本ワインの知識の普及を強化しようと、ソムリエ協会はテキストの中身も変えた。従来は生産国をフランス、ドイツなどの順に説明していたが最新の2014年版「日本ソムリエ協会教本」は日本を筆頭に据えた。

分量も増え10年版で6ページだったのが、2倍以上の15ページを費やして、栽培品種などを詳細に説明している。

地元産地に注目

日本のワイナリー訪問も活発になっている。中国地方のソムリエらは昨年10月、希望者を募り鳥取県北栄町の北条ワイン醸造所を初めて訪問した。

同醸造所は1944年にワインづくりを始めた中国地方最古のワイナリー。北条砂丘近くにあり、ブドウの木は砂場から生えている。

ソムリエや飲食店関係者ら約20人は同醸造所で甲州ブドウをつぶして液体にする工程などを見学、ブドウ畑も訪れて栽培者の話も聞いた。

神戸ワイナリーとソムリエが共同開発したロゼワイン「花珠」

甲州は山梨県などで盛んに栽培されているが、中国地方は少ない。「紫色のブドウから白ワインができることや砂丘でブドウが栽培された歴史を知ってもらいたかった」と企画した同協会の岸本吉史さんは語る。

ソムリエが地元のワイナリーと組んで商品を作る例もでてきた。神戸みのりの公社が運営する神戸ワイナリーが昨年売り出したロゼワイン「花珠(hanadama)」は神戸市でレストランを経営するシニアソムリエの近藤弘康さんらと共同開発した商品だ。

「神戸ワインのおいしさを知ってもらうにはロゼワインがいい」と語る近藤さん。神戸産のメルロー種を使い、やや辛口で洋食、和食に幅広く合わせられるという。経営する「ビストロ近藤亭」ではグラスワインが付く2500円のランチコースをはじめ花珠も選べる。

ワイン専門店も日本のワインに力を入れている。カーブ・ド・リラックス(東京・港)は日本ワインを常時、160種類そろえる。「10年ほど前に100種類飲んで品質の高さに驚いた。それから力を入れるようになった」と内藤邦夫社長。

今、日本ワインはフランス、イタリア産についで3番目の売り上げ構成比を占める。「山梨県などに出かけ、最新の情報を手に入れられる」のも魅力という。

神戸市で開店したワインショップ「R」では約30種類の日本ワインを扱う

神戸市の高級住宅地、岡本で10月に開店した専門店「R」も店頭の30種類が日本ワイン。経営する渡辺良平さんはそのほとんどの生産者に会っている。手に入りにくい四恩醸造(山梨市)の新酒などがよく売れる。「夕食がきりたんぽ鍋なら(フランス産の)ミュスカデか四恩醸造の窓辺はいかがですか」など「だしのうまみに合う」という日本ワインを勧めている。

日本の本格的なワイン醸造は1870年ごろ山梨県で始まったとされ、現在ワイナリーは200軒を超す。ただ、それぞれのワイナリーは各地で様々なブドウ品種で生産するため消費者には分かりにくいという指摘もある。

例えばフランスはワイン法で「原産地統制名称」が定められており、地域ごとに使用するブドウ品種などが決められている。例えば「シャブリ」と名乗れるのはフランス・ブルゴーニュ地方のシャブリ地区で栽培されたシャルドネ種の白ワインだけだ。だからこそ、生産地とブランドが密接に結びつく。

日本には今のところ、このような法律がない。「厳格なワイン法は日本には合わないかもしれないが、消費者にも生産者にも利益をもたらすようにしなくてはならない」とソムリエ協会の岡昌治会長は語る。それが、日本ワインがさらに世界に羽ばたくための鍵といえそうだ。(山口支局長 伊藤健史)

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