旅行・レジャー

日本の歩き方

「うまい米さえあれば良い?」新潟・里山の魅力

2014/12/29

納豆や豆腐は塩で食べる。質素だが、ご飯をおいしく食べられる工夫がある。(松之山温泉の「ひなの宿 ちとせ」の朝ご飯)

妻有という地域をご存じだろうか。「つまり」と読む。日本有数の豪雪地帯である新潟県の中南部、十日町市と津南町一帯を指す。新潟にあることを強調して「越後妻有」と言うこともある。美しい棚田で有名な里山が広がるこの地で、地元の食材とともにコメどころのご飯を一層おいしく食べてもらおうと直球勝負の取り組みが進んでいる。地域そのものを舞台にして、アート作品を展示する「大地の芸術祭」も3年に一度開かれる。食と芸術を融合させた里山の魅力発信は、農業を守り、人口を守る試みでもある。

コシヒカリで朝食を

「日本三大薬湯」に数えられる十日町市の松之山温泉。雪深い温泉街で5年前から取り組んでいるのが「朝ご飯プロジェクト」だ。朝ご飯は泊まらないと食べられない。豪華な食材を並べるのではなく、自慢のご飯を地元の野菜やきのことともに地産地消で提供する。宿泊客の誘致につながる上、朝食なら旅館側も比較的手軽に連携できるのがミソだ。

きっかけとなったのは2004年の中越地震だった。阪神大震災の3倍にあたる史上最大の2515ガル(揺れの強さを示す加速度の単位)の揺れは68人の命を奪った。新潟県では「中越大震災」と呼ぶ。妻有は新幹線の駅からも高速道路のインターチェンジからも遠く、もともと誘客が難しい地域。客足は一気に遠のいた。風評被害もやっと落ち着いた07年、中越沖地震が起きた。

地元の食材を少しずつ食べられる里山十帖の朝食。味噌汁は鍋で自ら作る。

「このまま少ない客を旅館同士で奪い合っては共倒れになる。ライバル同士で連携して地域の魅力を発信しないとこの危機は乗り越えられない」。プロジェクトのリーダー、松之山温泉の「ひなの宿 ちとせ」の柳一成専務は当時を振り返る。

地産地消は口で言うほど簡単ではない。地域の農家に質が高い農産物を安定して供給してもらう必要がある。

そこで立ち上げたのが、農家と旅館を直接つなげる流通組織「合同会社まんま」。春は山菜、夏は夏野菜の総菜、秋はきのこ、冬は自然薯(じねんじょ)のとろろ飯といった具合に旅館共通の食材を決めて安定した需要を確保すると同時に、それを可能にする供給を農家に求める。地域で完結した流通体制を確立するとともに、2年ちかくかけて農家の知恵も借りながら地域に伝わる季節ごとのおいしい朝食メニューを開発した。一番の売りはもちろん、棚田米のコシヒカリだ。

「最初は『こんな粗末なものを客に出せるか』と卑下する気持ちもあったが、試行錯誤するうちに地域のコメを一番おいしく食べられるのは地域の食材、『食べてもらえばわかる』という自信に変わった。見栄えを重視する豪華さから、素材を生かした食事に生まれ変わった」。柳専務はそう話す。

この地域は養豚も盛んで、県内でも名高いブランド豚「妻有ポーク」がある。旅館ちとせでは、妻有ポークの中の最高峰と言われる熟成肉「越乃紅」(こしのくれない)を温泉熱で2時間かけてじっくり調理した「湯治豚」のローストポークを提供している。これもまた大地の恵みを生かした地産地消。さらに、松之山温泉では温泉熱を利用した地熱発電の実証実験が行われている。「これが実用化されれば、電気の地産地消も可能になる」(柳専務)。

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