住みたい街ナンバーワン吉祥寺、モザイクの輝き中央線繁盛記(2)

「住んでみたい街」の調査があれば、ほぼ毎回ナンバーワンを獲得する吉祥寺が活気づいている。駅の改修や大型商業施設の開業を追い風に来訪者が増加。一方で小さな個店が集まるオシャレな路地も健在だ。

名物焼き鳥は健在

ハモニカ横町には約100店がひしめく

「戦後の闇市から発展したハモニカ横丁には約100店がひしめきあっています」――。

2月8日、武蔵野市観光機構が月1回企画する吉祥寺の街歩きツアー。約30人の参加者がガイドの解説に耳を傾けた。友人に誘われ東京都杉並区から訪れた主婦は「新たな発見があって面白かった」と笑顔で話した。

駅北口にあるハモニカ横丁は昭和のレトロな雰囲気が残る。迷路のような路地に飲食店などが混沌と立ち並ぶ様子がハーモニカの吹き口にたとえられたのが名前の由来。いつもサラリーマンらの熱気に包まれている。

いせや総本店の焼き鳥のファンは多い

居酒屋「おふくろ屋台一丁目一番地」は常連客らでにぎわう。急な階段を上った2階のカウンター席は6席ほどで、隣同士の客と自然と会話が生まれる。メニューに書かれている「矢沢課長」を注文すると、出てくるのは常連の矢沢さんが好きなスクランブルエッグ。遊び心に事欠かない。

香川県出身の店長、松江勇武さんは映画製作会社「武蔵野映画社」(武蔵野市)の社長という二足のわらじを履く。これまで吉祥寺を舞台にした映画を4本製作し、昨年閉館した映画館「吉祥寺バウスシアター」では2週間で約2千人を動員した。全国の映画館でも上映され、吉祥寺の文化の発信に情熱を注ぐ。「吉祥寺の魅力は人と人のつながりが強く村みたいなところ」と松江さんは言う。

ハモニカ横丁の端のわずか2坪ほどのスペースで営業する和菓子店「絹福総本舗」も人気だ。あんこで柔らかい餅を包んだ「絹福餅」が看板商品で、10人くらいが列を作る日も。一ノ瀬大輔代表は「吉祥寺はお客さんの目も厳しく、気が抜けない。商品の品ぞろえを増やすなど満足してもらえるよう頑張りたい」と気を引き締める。

自然が豊富で街がコンパクトな吉祥寺は散歩が楽しい。南口から徒歩すぐの「井の頭恩賜公園」はカップルやファミリーなどの憩いの場として全国的に有名で、お花見シーズンは人でごった返す。中心部にある井の頭池は初めて江戸に引かれた水道「神田上水」の水源で、豊富な湧き水が出ていた。2017年には開園100周年を迎える。

井の頭恩賜公園の井の頭池は神田上水の水源だった

「創業者の父親は水がきれいなところで店をやりたかったようです」と話すのは、1928年に吉祥寺で誕生した名物焼鳥店「いせや総本店」の清宮五郎社長だ。赤ちょうちんがかかった店内では、若いスタッフがモウモウと煙を立てながら炭火で焼き鳥を焼く。平日夜にカウンターで立ちながら食べていた70代の男性客は「店の雰囲気はいいし、肉も新鮮だよ」と太鼓判を押す。

料金は1本80円と昔から変わらず、消費税が上がっても値段は据え置いてきた。「採算が厳しいものもあるけど、やっぱり庶民の味方でありたい」(清宮社長)。常連客による「いせや会」という有志グループが結成されるほど愛されている。13年には、井の頭公園すぐ近くの「いせや公園店」をモダンな店にリニューアル開業し、最近では女性客や外国人客の姿も目立ってきた。

個性的な店は駅の西側

楽しさを増幅させてくれるのが、このところ個性光る店が増えている駅の西側エリア。中道通り、昭和通り、大正通り周辺にはアパレルや雑貨、カフェなど、ふと入ってみたくなる店が連なる。

タンディは職人手作りのバッグなどを販売している

「かわいい」。三世代のファミリーや女性客がひきこまれていく。中道通りにある「CAVE(ケイブ)」は、文房具やタオルなどカエルをテーマにしたグッズで店内が埋め尽くされている。

中道通りから少し路地に入ると、職人の手作りのバッグが並んだ「タンディ」を発見した。「シンプルで長く使える」をコンセプトにし、色など客の注文を基に作るオーダーメードに対応。30代の女性らリピーター客も多い。三崎屋太知店長は「小さな店がたくさんあるのは吉祥寺の魅力。(本店のある)神戸にどことなく雰囲気が似てる気がする」と話す。

ただ、吉祥寺で商売をしたいという個人事業者は多い半面、いつの間にか消えていく店も少なくない。商業関係者らでつくる吉祥寺活性化協議会の塚本真史会長は「新規出店のスピードに需要が追いつかず、1年もたたないうちに撤退する店も多い」と指摘する。

一方、「サンロード」など駅周辺ではドラッグストアや飲食店など大手資本の「チェーン店化」が進んでいる。中心部は家賃が1坪10万円を超えるケースもあって都心にも引けを取らないほどで、個人事業者ではなかなか手が届かない。駅の西側エリアに個性的な店が多いのは、家賃が割安なためでもある。

吉祥寺の風景は大きく変化している。「昨年は駅周辺で50~60年に一度の大規模な再開発があった」(武蔵野市の都市整備部吉祥寺まちづくり事務所の松崎泰所長)からだ。東日本旅客鉄道(JR東日本)や京王電鉄、武蔵野市は南北をつなぐ駅の自由通路を16メートルと倍以上に拡幅。迷路のように複雑だった駅の導線も分かりやすくし、人の行き来が格段にスムーズになった。改札も集約するなど利便性を高めた。

京王電鉄は約170億円を投じ駅ビルを建設、4月に大型商業施設「キラリナ京王吉祥寺」として開業した。全体の約7割にあたる70店を吉祥寺初出店の店にするなど、「この街にありそうでなかったお店を集めた」(田中章仁・副支配人)のが特徴。女性を中心に新たな客を開拓している。

さらに10月にはユニクロやヤマダ電機が誕生した。ユニクロはビル全7フロアすべて(売り場面積約2700平方メートル)という全国でも有数の大きさ。13年にはドン・キホーテもできている。

街づくりに秘策あり

改修を終えた吉祥寺駅(後ろの建物は京王電鉄のキラリナ京王吉祥寺)

だが、大型商業施設ができたあおりで個人商店が廃れるといったことは、吉祥寺では起こっていない。武蔵野市は1960年代から都市計画の一環で、大型店を点在させている。人の流れが特定の大型店に集中せず、街中を巡ってもらえるようにするのが狙いで、それは今でも変わらない。「吉祥寺に来たら必要なモノは何でもそろうし、街歩きが楽しい」と言われるのは街づくりと密接に関係している。

吉祥寺の活気は、「皆が一体となって街のにぎわいの創出に取り組んでいる」(塚本会長)ことにも支えられている。毎月、第1金曜日には「FFN(ファースト・フライデー・ノミニケーション)」と呼ばれるユニークな飲み会が開かれている。大型商業施設、金融機関、個店の店長ら約30人が膝を突き合わせ、ざっくばらんに商売や街の現状などについて飲み語らう。支払いは割り勘だ。

ユニクロは店内の一角に周辺の個店を写真付きで紹介する常設コーナーを設けた。キッズフロアの窓には吉祥寺の街並みが描かれている。「地元の人に愛されないとお店の成長はない」と若桑芳長店長は語る。キラリナ京王吉祥寺も商業施設としては珍しく食事を提供する飲食店は置いていない。「周辺にたくさんおいしいお店があって吉祥寺の良さを知ってほしい」からだ。

吉祥寺の魅力を道行く人に尋ねると「渋谷と新宿と違い都会すぎずゆっくりと時間が流れる」、「交通の便がよく自然もあって子育て環境に最適」などとの声が返ってくる。ただ、荻窪や立川など「中央線沿線の都市間競争も激しくなっている」(武蔵野市観光機構の武藤毅事務局長)。

JR東日本によると、13年度の吉祥寺駅の1日平均乗車人員は約13万9千人。立川駅(約16万人)には大きく差をつけられ、中野駅も約13万8千人と迫っている。

今後、市は南口に駅前広場の整備を計画。現在はバスが歩行者の多い道を走って駅前に到着しているが、広場の整備で歩きやすい街をつくる。老朽化が進んでいる武蔵野公会堂の建て替えも検討中だ。

今後、街のにぎわいのカギを握るのは外国人だろう。国内では圧倒的に知名度が高くファンが多い吉祥寺だが、外国人の開拓余地は大きい。免税対応の店や街の外国語表記を増やすなど、打つべき手はいろいろある。(細川倫太郎)

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