コメは「誕生秘話」で売る 雌伏の時経た注目の新銘柄
「おいしさはもちろん、独自の背景を持つことが商品の差別化に適している」。コメ卸最大手、神明ホールディング(神戸市)の担当者は、宇都宮大学が開発したコメの新品種「ゆうだい21」に着目した理由を語る。
神明ホールディングは昨年11月に宇都宮大学、ローソンと、ゆうだい21の活用と普及などに関する協定を結んだ。これから作付けが始まる2015年産は全国の農家と栽培契約を結び、2000トン生産する計画。ローソンが販売する弁当などに採用される見通しだ。
ゆうだい21の最大の特徴は冷めても粘りが落ちずおいしさが持続すること。コシヒカリより大粒で見栄えも良い。それ以上に、1990年に大学の実験農場でたまたま見つかった品種を10年かけて選抜して誕生したが、あまり世間に知られていなかった、というサイドストーリーが神明ホールディングやローソンをひき付けた。
「いまや、コシヒカリ使用をうたったおにぎりでも差別化できない。ゆうだい21の希少性をアピールしたい」と神明ホールディングの担当者は話す。
岩手県陸前高田市がブランド化を図る「たかたのゆめ」も曲折を経て世に出た品種だ。日本たばこ産業(JT)が02年に品種登録したものの、事業からの撤退で市場に出ることはなかった。東日本大震災で津波による甚大な被害を受けた同市の復興支援を目的に、JTが権利などを寄贈したのがブランド化のきっかけとなった。
販促を支援する伊藤忠商事は今年3月11日に東京・青山周辺の飲食店と協力して、たかたのゆめを使ったメニューを1日限定で提供した。陸前高田市から生産者も駆けつけ、たかたのゆめに対する思いなどを語った。
あっさりとした味わいでどんなおかずとも合うと評される。15年産からは付加価値を高める狙いで減農薬、減肥料の特別栽培に生産を限定する。東京都内の百貨店などに加え、地元の飲食店への販売にも力を入れる。
00年に岐阜県で偶然発見されたのが、コシヒカリが突然変異した「いのちの壱」。粒の大きさはコシヒカリの1.5倍で、その食べ応えから人気になった。その特長をさらに生かそうと考えた生産者たちは合同会社まん丸屋(岐阜県下呂市)を立ち上げ、13年産からは栽培条件を厳格にしたものだけを「銀の朏(みかづき)」のブランドで売り出した。
岐阜県の飛騨地方や周辺の中山間地域で、農薬の使用を抑え化学肥料を使わずに栽培する。米穀店などの評価は高く、14年産は5月には完売の予定。15年産は作付面積を3割増やす計画だ。代表社員の曽我康弘さんは「突然変異の品種は栽培が難しく、専門家が関わると生産を断念することになっていたかもしれない」と話す。
コメの開発は行政が主導する例が多く、生産者にとっての作りやすさが開発の条件になってきた面がある。雌伏の時を経て世に出たこれらの銘柄は、それだけ味も評価されていると言えるのかもしれない。
(田上一平)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。