「勝った夢、絶った今も」元貴闘力が語るギャンブル

2016/12/23

マネートレンド

元関脇・貴闘力の鎌苅忠茂さん(49)
元関脇・貴闘力の鎌苅忠茂さん(49)
統合型リゾート(IR)整備推進法(カジノ法)が臨時国会で成立した。「賭博解禁」には経済波及効果と同時にギャンブル依存症など負の側面がつきまとう。依存症とはどんなものなのか、かつてギャンブルで億単位の金と角界での地位を失った元関脇・貴闘力の鎌苅忠茂さん(49)に経験を語ってもらった。

――日本でもカジノが解禁される見通しになった。

「反対でもないし、賛成でもない。やり方次第だ。やるからには野党からも賛同してもらえるような方法でやるしかないだろう。カジノはみんながハッピーになるわけではない。負けて寂しくなる人間もいれば、収益で助かる人間だっている」

――ギャンブルは何でもやったと聞いた。

「日本にはパチンコ、競馬、競輪、オートレースもあり、ギャンブルをしようと思ったら朝から晩までできる。カジノも数あるギャンブルのうちの1つと考えられるかもしれない。でも、競馬も競輪も時間で区切られるが、カジノは24時間エンドレス。かーっとなって全財産なくすこともあるだろう」

――ギャンブルにのめり込んだきっかけは。

「賭け事好きだった父には反発していた。俺はギャンブルなんてしないで、まじめにこつこつお金をもうけると思ったけど、そうはいかなかった。部屋に入門後、周囲にギャンブル好きの人がいた。ギャンブルは悪いというイメージはなく、自分も当たり前のように始めた」

――海外のカジノにも行った。

「海外は巡業でしか行く機会がなかった。英、仏、オーストリアと、海外のカジノと呼ばれるところにはほとんど行った。巡業の合間に観光には行かなかったけど、カジノは一日中やっていた。オーストラリアなら差し引き5500万円勝ったし、マカオでも勝った」

――常に高揚感を求めていたのか。

「そうかもしれない。土俵に立って勝った時と、ギャンブルで勝った時の高揚感は似ている。勝ってうれしいのは何だって一緒。でも物欲はあまりない。いい時計をしよう、いい服を着よう、いい家を建てようっていう思いはない。それがあったほうがよかったんだろうけどね」

「ギャンブルをやめようとはしょっちゅう思っていた。なんてバカなことをしてるんだろうって。だけど勝った経験が忘れられない。勝ったら勝ったで、もうけを種銭としてまた賭けるから同じ事の繰り返し。これまでにギャンブルに突っ込んだ金は5億円。もっと多いかもしれないけどよくわからない。金はいろんなところから借りていた」

――ギャンブル依存症という言葉がクローズアップされている。

「俺は自分が依存症だと思っていなかった。でも医療機関を受診したら、すべてのチェック項目に引っかかった。20問あって全問正解のパーフェクト。依存症になるとなかなか治りきらない。俺が治ったかというと、まだギャンブルをやめて2年しかたってないしわからない。今後またやらないとも限らない」

「ギャンブルを絶っても禁断症状はある。いらいらすることがある。もうちょっと心に余裕があればいいんだけど。ギャンブルで勝った夢はよく見る。負ける夢は見てもおもしろくないでしょ」

――現役引退後、野球賭博への関与が発覚し、日本相撲協会を解雇された。妻との離婚をへて、飲食店の経営を始めた。

「2013年末に従業員の給料を払えなくなりそうになって、いよいよギャンブルはやめた。これまでに焼き肉や居酒屋など11店を手掛けて、店長が独立した店もある。自分の力というよりも、働いてる人の頑張りしかない」

「もうかったときは楽しい。商売は101勝100敗でも勝ちなんだ。101勝0敗なら無敵だろうけど、そうはいかない。経営は軌道にのってない。ちょっと蹴られたら吹き飛ぶよ」

――親類や知人から借金をしてでもギャンブルを続ける人は少なくない。

「借金をした人がカジノをできないシステムをつくってしまえばいい。親や家族の申し出があったり、消費者金融に借金があったりしたら、入場できないようにする。IDカードをつくれば、誰が勝って誰が負けたのかもわかるわけだから」

――ギャンブルがきっかけで転落する人が出てほしくないと。

「そうそう。依存症で寂しい思いをしないように、笑ってギャンブルできるような……ってなかなかないよね」

鎌苅忠茂(かまかり・ただしげ)1967年神戸市生まれ。元大相撲力士。中学校卒業後、藤島部屋(のちに二子山部屋)に入門。1983年春場所で初土俵を踏み、90年秋場所で新入幕。最高位は関脇。2000年春場所では幕内の最下位で史上初の「幕尻優勝」を果たした。激しい張り手と突き押しを武器に、金星9個を獲得。特に曙からは7個を挙げ「曙キラー」と呼ばれた。
 02年秋場所を最後に現役を引退。大鵬部屋の親方となったが、10年には野球賭博への関与が発覚し日本相撲協会から解雇された。現在は飲食店経営の傍ら、タレントとしても活動。ギャンブル依存問題で講演したこともある。

依存症・資金洗浄対策は不可欠

日本には既に巨大なギャンブル市場が広がっており、日本生産性本部がまとめた「レジャー白書」(2015年)によると、競馬、競艇、競輪などの公営ギャンブルの売上高は5兆7510億円に上る。世界最大のマカオのカジノにほぼ匹敵する規模だ。風俗営業法で「遊技」に位置づけられるパチンコの市場規模も23兆円超と推計される。

厚生労働省研究班の13年の推計によると、国内でギャンブル依存症の疑いのある人は536万人。成人の20人に1人が該当することになる。

ギャンブルの裾野をさらに広げるカジノ法の審議では与党からも反対する議員が出るなど、ギャンブル依存症やマネーロンダリング(資金洗浄)を懸念する意見が相次いだ。政府は同法施行後1年以内をメドに、運営の仕組みや管理方法などを定める実施法案をつくる。

借金を重ねてのめり込む人が出ることも想定されることから、自民、公明両党はカジノへの入場規制を検討する。マイナンバーを使って入場回数を制限する案などが挙がっており、年明けにも始める与党協議で具体化する。

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