五輪ランナー、木陰で涼んで 沿道の樹木を大きく育成夏のマラソン、代表選手も熱中症で命の危険に

2020年東京五輪・パラリンピックで選手や観客の熱中症を防ごうと、競技場周辺やマラソンコースの暑さ対策が急ピッチで進んでいる。街路樹を大きく育てて木陰を増やしたり、道路の舗装を遮熱したりと自治体は知恵を絞る。過去の夏季五輪や世界大会で選手が脱水症状や熱中症になったケースもあり、東京大会の大きな課題となっている。

街路樹の枝葉が長く伸びるように剪定する(7月28日、東京都千代田区)

7月下旬、東京・神田の外堀通り。強い日差しが照りつけるなか、高所作業車に乗ったヘルメット姿の作業員が手際よく街路樹の枝葉をハサミで切っていた。

通常の剪定(せんてい)に見えるが、実は都が7月に始めた暑さ対策の一つ。都心部の街路樹を大きく育て、歩道に照りつける日差しを遮るのが狙いだ。

都は16年度、マラソンコース沿いや競技場が集まる臨海部の都道など計約45キロの街路樹を調査。7割にあたる約2千本を剪定対象に選んだ。

通常は枝葉を短く刈るが、今回は枝葉を伸ばすために長さをそろえる。靖国通り(東京・千代田)のスズカケノキは幅2.7メートル、高さ8.6メートルほどだが、3年ほどかけて幅6.5メートル、高さ12メートルまで育てる計画だ。

国の実証実験によると、木陰は日なたに比べて路面温度が最大約7度低くなる。都公園緑地部計画課の根来千秋課長は「五輪後も対策を続け、歩行者が涼しく過ごせる環境をつくりたい」と意気込む。

陸上競技のコースとなる車道の改良も進んでいる。都の16年夏の調査では、真夏日の東京・日本橋の路面温度は最高で60度になる。このため、都や臨海部の自治体は熱をためやすいアスファルトに遮熱性の樹脂を塗って、太陽熱を反射させる作業に着手した。路面温度を最大で8度ほど下げられるという。

国土交通省は今年度から、壁に植物を植えたりはわせたりした「緑化壁」の開発に官民共同で乗り出す。街中に簡単に設置できる仮設型の緑化壁が、周囲の気温をどの程度下げるか検証する。

東京五輪は7月下旬から8月上旬に開催。8月下旬から9月上旬に開催されるパラリンピックも猛暑が懸念される。

屋井鉄雄・東京工業大教授(環境交通工学)は「東京の道路は高層ビルに囲まれているため、エアコンや車の排熱がこもり気温が上がりやすい」と指摘。「五輪開催中は日本の蒸し暑さに慣れない外国人も集まる。自治体は安全に競技や観戦を楽しめるよう対策を強化してほしい」と強調した。

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夏季五輪や世界陸上では、これまでも選手が脱水症状や熱中症でレース続行を断念したり、力を発揮できなかったりする事態が起きている。

1984年のロサンゼルス五輪女子マラソンでは、スイスのガブリエラ・アンデルセン選手が脱水症状でよろめきながらゴールした。最後まで諦めない姿勢に多くの観客が声援を送ったが、熱中症には命の危険も伴う。

最高気温が33度を超える中で行われた2007年の世界陸上大阪大会の男子マラソンでは出場した85人のうち、約3分の1にあたる28人が途中棄権した。

日本代表として同レースに出場した山梨学院大陸上競技部コーチの大崎悟史さん(41)は「コースは日かげがなく、強い日差しと路面からの照り返しを全身で浴び続けた。体中が火照って飛び散るほど汗をかいた」と振り返る。

大崎さんは東京五輪でも似た状況が起こりうると警告する。「競技の開始時間を早朝や夕方に設定するなどの対策が必要。選手自身もこまめに給水を受けたり、水を体にかけたりする工夫が欠かせない」と強調する。

[日本経済新聞夕刊2017年8月10日付]