札幌市は性的少数者(LGBT)カップルの関係を公的に認証する「パートナーシップ宣誓制度」を始めた。全国の自治体では東京都渋谷区、世田谷区などに続き6つ目で、政令市としては初めて。札幌市は2026年冬季五輪・パラリンピックの招致を目指している。五輪憲章は性的指向による差別を禁止しており、五輪・パラリンピック招致に向けた本気度をアピールする思惑もある。
札幌市の制度は、カップルが市役所本庁舎を訪れ、同市独自の「宣誓書」に市職員の面前で署名して提出すると、市が受領証と宣誓書の写しを発行する手順。カップルは事前に日時を予約しておく必要がある。
制度は条例ではなく、市の内部規定である「要綱」で定めている。法的効力はなく、権利や義務は発生しない。そのため現時点では性的少数者に対して周囲に理解を求める象徴的なものにとどまるが、市は民間企業に対しても携帯電話の家族割適用などの対応を求めていく。
制度がスタートした6月1日から7日までに認証を受けたカップルは合計7組。7日時点で、ほかにも11組の予約が入っているという。初日の午前に手続きを終えた20代と30代の女性カップルは「やっとこの日がきた。(公認が)あるというだけでも安心感が持てる」と笑顔で話していた。
全国の自治体でこうしたパートナーシップ制度を導入しているのは渋谷区、世田谷区に三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、那覇市を加えた5つ。札幌市は6つ目となる。今後は行政として、一般の夫婦と同様の権利をどれだけ認めるかが検討課題となる。
札幌市住宅管理担当課は「LGBTカップルの市営住宅への入居は検討課題の1つと認識している」と話す。関連条例の改正が必要で、「まだ具体的な方向性は見えていない」のが現状だ。
15年に全国に先駆けてパートナーシップ制度を取り入れた世田谷区でも、今年2~3月の定例区議会でLGBTカップルの区営住宅への同居を認める条例改正案を提案したが、区民への周知が不十分などとして継続審査となった。
それでも札幌市が今回、政令市として初めて性の多様性を尊重する姿勢を示した意義は大きい。市内の民間企業も呼応する動きを見せており、結婚式場運営のグローヴエンターテイメントはLGBT当事者の学生や周囲の理解者を対象とするインターンシップを8月に東京で実施する計画だ。
札幌市は26年冬季五輪・パラリンピック招致を目指し、日本オリンピック委員会(JOC)に開催提案書を提出済み。北海道や地元政財界と一体となって招致活動を進める方針だ。ただ18年冬季が韓国の平昌、20年夏季が東京、22年冬季が北京とアジアでの開催が続くため、不利に働くという見方もある。
[日本経済新聞夕刊2017年6月1日付、同朝刊2日付を再構成]